九十九人分の賞金首
霜戸ハヅルは、瀕死のPK《百舌》へ剣を向けたまま動かなかった。
《賞金継承》
賞金首を殺したプレイヤーは、未解決の被害請求と賞金額を全継承します。
NPCによる処刑では継承されません。
《百舌:未解決請求99件》
「殺せよ。英雄になれるぞ」
百舌は自分でHPを一まで削り、広場の中央へ座っている。討伐報酬は莫大。だが殺した瞬間、九十九人分の復讐対象がハヅルへ移る。
百舌はそれを狙っていた。別アカウントへ移る前に、罪と賞金だけを誰かへ押しつけるつもりだ。
「怖いのか?」
「死ぬのが?」
「正義の味方になるのがさ」
周囲の観客が煽る。百舌を殺せば拍手される。仕組みを説明しても、臆病者の言い訳に聞こえる。
ハヅルは剣を収め、百舌へ回復薬を投げた。
「何の真似だ」
「歩けるようにした」
彼は百舌の首へ縄をかけ、警備都市まで引きずり始める。百舌はわざと崖へ身を投げようとし、魔物へ噛まれようとする。どれもプレイヤーの殺害ではないが、道中で死ねば賞金契約が未処理になる。
ハヅルは治療し、担ぎ、罵声を浴びながら進んだ。
都市門で百舌が最後の挑発をする。
「俺を生かすために何人見殺しにした?」
「九十九人が、死なせるなと言ってる」
被害請求一覧の末尾には全員同じ条件があった。
《本人による処刑ではなく、公的裁定を希望》
警備NPCの槍が百舌を貫く。賞金はハヅルへ移らず、九十九件の補償金へ分配された。
《処刑者:都市警備機構》
《賞金継承対象:なし》
処刑後、ハヅルの討伐欄には何も増えなかった。代わりに《護送距離二十七キロ》だけが記録される。
観客の多くは拍手をやめ、九十九人の請求内容を読み始めた。奪われた装備、消された名前、帰れなくなった家族。賞金額は一つの大金ではなく、それぞれの被害を足した数字だった。
百舌は道中、何度も「殺せば楽になる」と言った。楽になるのはハヅルではなく、本人だったのだ。
警備員が最後に尋ねる。
「報酬を受け取るか」
ハヅルは護送用の縄だけ返却し、首を振った。九十九人が望んだのは新しい英雄ではなく、自分たちの罪を背負わされない結末だった。
《討伐失敗/被害請求解決――英雄になるため殺す者ではなく、罪を次へ渡さず裁定まで運んだ者を捕縛者として記録します》