二度目のローラー
市営バスの車庫を舗装できるのは、最終便が戻ってから始発が出るまでの五時間だけだった。
午前二時、三台目のダンプが渋滞で四十分遅れて到着した。荷台から湯気は上がっている。現場監督は葛西暁人に「まだ熱い、敷け」と言った。
暁人は荷の端と中央へ温度計を差した。どちらも表面の湯気ほど熱くない。運転手が待機中にシートを何度も開けて状態を見たため、熱が逃げ、全体が下限近くまで冷えていたのだ。
合材温度は施工の下限ぎりぎり。敷くこと自体はできる。だがローラーで転圧しても締まりきらず、バスが毎日同じ軌道を通れば、春には轍になる。
「この車は使わない」
「捨てる金額を知ってるか」
「埋めたら、掘る金額も増えます」
暁人は予定していた一枚続きの施工を諦め、すでに敷いた部分の端をまっすぐ切った。そこをジョイントとして仕上げ、遅れた合材は場内の仮設通路へ回す。始発が走る本線には、到着したばかりの新しい便を使うことにした。
問題は時間だった。暁人はローラーの回数を減らさず、走る順番を変えた。端から中央へ進む予定を、冷えやすい端部から二台同時に押さえ、最後に中央を重ねる。作業員には「速く」ではなく「止まらないで」とだけ伝えた。
午前四時四十分、最後の転圧が終わった。表面には黒い光が均等に伸びていた。
監督が靴で踏み、「間に合ったな」と言う。
暁人は答えず、ジョイントの縁へ細い水糸を張った。段差はない。二度目のローラーを通し、ようやく手を上げた。
五時、最初のバスがゆっくり入ってきた。運転手は新しい舗装を避けるようにハンドルを切ったが、暁人が中央を指した。
「そこを走ってください。走るために作りました」
遅れて届いた合材には赤い札を付けた。何も書かなければ、別の作業員が本線用だと思って再び運ぶ。使わない判断は、置き場所まで変えて初めて現場全体の判断になる。
バスが通り過ぎると、反対側の古い舗装を指す赤いスプレー印が見えた。次の夜に削る場所だった。