二百枚目の鋼板

物流倉庫建設の追加費用会議で、蔵持怜央は鋼材加工会社の現場担当だった。元請けの忍海建設は、納品した床補強板二百枚のうち一枚に寸法不足があったとして、全数交換と工期遅延金八百万円を求めていた。

問題の板は幅九百九十八ミリ。仕様は千ミリ、許容差マイナス一ミリ。二ミリ不足している。

忍海所長は検査票を示した。二百枚目だけ不合格。怜央の会社の検査印も押されている。

怜央は番号を確認した。鋼板の製造番号はA001からA199まで。二百枚目だけB200だった。表面の刻印も別工場の形式で、怜央の会社が使う鋼材ではない。

「これはうちの板ではありません」

所長は納品現場にあった以上、下請けの責任だと言った。

怜央は搬入写真を投影した。二百枚はすべて青い保護膜付きで、番号はA200まで連続している。A200の検査値は千・一ミリ。合格して既に床へ施工済みだった。

B200の入庫記録を調べると、会議前日の午後六時四十七分、忍海建設の別現場から移送されていた。運搬指示者は所長本人。寸法不足で廃材予定だった板だ。

さらに検査票の怜央会社の印影は、以前提出した検査員名簿から複写したものだった。印の欠けと紙の汚れが一致し、裏面に朱肉が染みていない。

所長は声を落とした。

「八百万円は保険だ。今後の発注で取り返せる」

怜央は追加費用契約の全数交換欄を指した。

「取り返す前に、施工済みのA200を床から見つけてください」

元請け役員が現場への確認電話をかけた。床下カメラにA200の刻印が映ると、八百万円の決裁印は持ち上がらなかった。

怜央はB200の購入伝票も提示した。価格は一枚三千円の廃材扱い。一方、全数交換費には新品二百枚分が計上され、その発注先は所長の親族会社だった。寸法不足の一枚を置くことで、下請けへの請求と親族会社への発注を同時に作っていた。

二百枚目として運び込まれた一枚が、全数交換の決裁を一枚目から止めた。