五十三年後に再生される別れ

コルム・ヴェインが恒星船で目を覚ますと、窓の外に青い海の惑星があった。

地球を発って五十三年。

目的地〈ネレイス〉への到着を告げる映像のあと、私信が一件、自動再生された。

画面にナティア・ロウが映った。

出発前と同じ三十四歳の顔で、明るく笑っている。

『おはよう、コルム。私は乗っていません』

彼は眠気を忘れ、隣の休眠槽を見た。

空だった。

出発前、コルムは選抜海洋技師となり、同居パートナー枠へナティアを登録した。

「一緒に来て」と言った。

けれど新天地の話をするとき、彼の口から出るのは海流、建設計画、未知の生物ばかりだった。

二人の家や、二人の朝については一度も話さなかった。

ナティアは気づいていた。

彼の心は、出発よりずっと前に、遠い海へ渡っていた。

『あなたは優しいから、私を置いていく人になれなかった。私も臆病だから、置いていかれる人になるのが怖かった。だから、黙って同行登録を取り消しました』

コルムは緊急通信を開いた。

地球との往復には百年以上かかる。

ナティアはもう生きていない可能性が高かった。

映像の彼女は続ける。

『怒っていいよ。でも、戻れない場所まで来てから伝えたのは、あなたが罪悪感で船を降りないようにするためです』

最後の夜、ナティアはいつもどおり夕食を作り、笑顔で彼を発射場へ送った。

コルムは、彼女が後便に乗ると信じていた。

抱きしめたとき、彼女が背中へ回した腕が少し震えていたことを、今さら思い出した。

『あなたが私を嫌いになったわけではないのも分かっています。でも、好きだった私を荷物みたいに新しい星へ運ばないで。あなたの未来に私がいないなら、その空席まで二人の部屋にしないでください』

画面の向こうで、ナティアは一度だけ笑顔を崩した。

すぐに涙を拭き、また笑った。

『私は地球で、私の人生を続けます。あなたはネレイスで、あなたの海を見てください。さようなら。今度こそ、ちゃんと一人で到着して』

映像が終わった。

着陸後、コルムは最初の調査艇で海へ出た。

水平線のどこにも、彼女はいない。

彼女の名を湾や岬につけることもしなかった。

それをすれば、この星まで彼女を待つ場所にしてしまう気がした。

代わりに、誰にも送れない航海日誌へ書いた。

〈ナティアは笑顔で私を送り出した。あれは許しではない。彼女が自分の人生を、私の後悔から守った顔だった〉

夕日が海へ沈む。

彼女は彼の新しい世界にはいなかった。

だからこそ海は、失った恋の代用品ではなく、コルムが自分で生きなければならない未来として、どこまでも広がっていた。