井戸に映らない兵
中庭の井戸へ、負傷兵が次々と運び込まれてきた。
城門前の戦いは終わった。勝ったのかどうかはまだ誰も知らない。井戸守ユフェナの前では、腹を裂かれた者、焼けた者、息を吸えない者が、ただ水を求めていた。
この井戸の水は、一桶で一つの致命傷を消す。代わりに、水を汲んだ者の姿から一部分を奪う。奪われた場所は傷つかないが、目にも鏡にも映らず、人の手も触れなくなる。
ユフェナは最初の桶を引いた。
水を浴びた兵の腹が閉じる。同時に、ユフェナの髪が消えた。頭皮が見えたのではない。首から上の輪郭だけが、空気へ溶けたように欠けた。目と口はまだ宙に浮いている。
二桶目で、焼けた兵の皮膚が戻り、ユフェナの左腕が見えなくなった。自分には重さがあるのに、掴もうとした同僚の指は腕をすり抜ける。
三桶目。潰れた胸が膨らみ、彼女の胴が消えた。衣だけが腰と肩のあいだで垂れ、内部には何もないように揺れる。
「もうやめろ」
隊長が言った。「城は持った。残りは助からない」
その残りの中に、伝令見習いのラシクがいた。まだ十二歳で、喉に矢の破片が刺さっている。声も出せず、両手でユフェナの見えない袖を探した。
彼女は四桶目を汲んだ。
水が喉を流れると、ラシクは激しく咳をし、空気を吸った。代わりにユフェナの両脚が消えた。地面を踏む感覚はあるのに、靴だけが誰にも支えられず倒れる。
井戸の縁へ身体を預ける。残って見えるのは、宙に浮く二つの目と、血に濡れた口だけだった。
そのとき、門の向こうから最後の担架が来た。胸に城塞の鍵を抱いた門兵だった。彼が死ねば、内門を開けられず、外へ出た味方が戻れない。
五桶目を引く縄は、見えない手をすり抜けた。ユフェナは歯で噛み、井戸の水面まで身を乗り出して引いた。
鍵守の胸へ水が落ち、心臓が動く。
そしてユフェナの目と口も消えた。
勝利を知らせる兵たちが中庭へ雪崩れ込んだ。ラシクだけが井戸のそばで両腕を広げ、何もない空間を抱いた。
「ここにいるんだろ」
返事はない。けれど井戸の縄がひとりでに揺れ、濡れた風が彼の頬を一度だけ撫でた。
井戸を覗くと、救われた兵たちの顔は映っていた。その中央に、人の形をした空白が一つ、水面の底まで深く立っていた。