倉庫に入れない六百袋

洪水救援の荷車が東門へ着いたとき、倉庫前は六百袋の麦で塞がっていた。

従来の手順では、到着した荷をいったん全て倉庫へ入れ、台帳へ書き、翌朝また村別の車へ積み直す。だが川はさらに増水し、四つの避難村へ通じる橋は日没に沈む。倉庫番は「規則だから」と扉を開け、間に合わなければ臨時係の蘆原初音の責任にすると告げた。

初音は倉庫の扉を閉めた。

門前の地面へ、白、青、黄、緑の四本の線を引く。線の先には、それぞれ避難村へ向かう空の荷車を横づけした。

「入ってきた袋を、そのまま向こうへ渡してください」

最初の救援車が白村の札を見せる。荷役人は袋を倉庫へ運ばず、白線の人列へ渡した。十人の手を流れ、反対側の村車へ収まる。次は青、次は緑。袋は地面へ置かれることすらなかった。

倉庫番が台帳を振り回して怒鳴ったが、初音は線ごとの計数板を一つ倒すだけだった。百五十枚の板が倒れた線から、荷車が順に出発する。

四十七分後、門前から麦袋が消えた。

倉庫へ入った袋は零。積み直しで破れた袋も零。いつも六刻かかる仕分けは一刻未満で終わり、四隊すべてが橋の沈む二刻前に東門を出た。

最後の村車が門を出た直後、空が割れたような雨が来た。倉庫へ入れる手順を選んでいれば、六百袋はまだ入口で順番を待ち、半分が濡れていた。だが門前に残ったのは、行き先別に倒された計数板だけだった。

四村の受領数は白百五十、青百五十、黄百五十、緑百五十。送り側の板と、村長が持ち帰った札の数がすべて一致する。倉庫へ二度出し入れしないため、袋を持ち上げた回数は従来の千二百回から六百回へ半減し、荷役人のうち腰を痛めた者も零だった。

役人が心配した記録も、四色の札を重ねれば一目で追えた。どの救援車からどの村車へ渡ったか、倉庫の山を崩して探すより明確だった。

日暮れ、避難村から四本の青い狼煙が上がった。受領の合図だった。

倉庫番が「帳面を通していない」と抗議すると、領主は空の倉庫と、六百袋分倒れた計数板を見た。

「荷は倉庫のためにあるのではない。村へ届かせるためにある」

領主は初音へ救援輸送章を渡した。

「今後、東門の積み替え場は君が指揮しろ。倉庫へ入れるかどうかも、君が決める」