偽橋が描かれた軍用図

北部騎士団の作戦会議で、斥候セフィラ・ノルンは反逆者として剣を取り上げられた。

敵軍から押収した密書に、王国軍の進軍図が添えられていた。その同じ図が、彼女の寝台下からも見つかったのだ。

「地形を知る斥候なら、敵へ売ることも容易い」

団長ガイゼル・ラドックは二枚を机に並べる。

「昨夜、セフィラが城外へ出たのを見た者もいる。処刑前に何か言うことはあるか」

セフィラは図の南端を指した。

「この川に、石橋が描かれています」

「それがどうした」

「そんな橋は存在しません」

会議室が静まった。

軍本部は内通者を探すため、役職ごとに一か所だけ違う偽情報を入れた進軍図を配っていた。斥候用の図には偽の森、補給隊用には偽の井戸。そして石橋が描かれているのは、団長室へ届けた一部だけだった。

ガイゼルは鼻で笑う。

「おまえが私の部屋から盗んだのだ」

「では、受領証をご確認ください」

本部監察官が羊皮紙を開いた。団長用の図には赤い透かしが入り、複製すると受領者の署名が縁へ浮かぶ。敵の密書に添えられた図にも、ガイゼルの名が連なっていた。

ガイゼルはなおも机を叩く。

「セフィラが魔法で写した!」

「その主張で提出するのですね」

監察官に促され、彼は反逆告発書の末尾へ勢いよく署名した。すると二枚の図が淡く光る。軍用紙は、同じ署名者が触れると最後の複写命令を再生する。

『石橋の図を三部刷れ。一部を敵陣へ、一部を女の寝台へ置け』

ガイゼル自身の声が響いた。

セフィラが昨夜城外へ出たのは、監察官の命で敵の連絡役を追っていたからだ。長い弁明は必要なかった。団長が自分の証拠に、自分の名を何度も残していた。

監察官が王命書を開く。

敵軍がその偽橋を信じて進んだため、沼へ足を取られた部隊はすでに投降していた。セフィラが城外で捕らえた連絡役も、金貨を渡した人物は団長だと証言する。ガイゼルが彼女へ着せた反逆の名は、彼自身の作戦失敗と内通を隠すための最後の盾だった。

「ガイゼル・ラドック。内通および反逆者捏造の罪により、ただちに逮捕する」