傷を選ぶ十四歳

栂野史織は、生まれつき筋肉が育たなかった。四歳で脚を、七歳で腕を、十歳で胸郭を機械へ替えた。外装は皮膚そっくりで、体温も汗も再現した。母はいつも言った。

「誰にも分からないようにしてもらったから、大丈夫」

鏡の前では、人間の皮膚に見えるかを毎朝確認された。赤みが足りなければ補正し、関節音がすれば学校を休んだ。母が守ろうとしていることは分かっていたが、史織には、自分の身体が家族の秘密になっていくように思えた。

史織も、大丈夫なふりを覚えた。体育ではわざと遅く走り、握力測定では出力を落とした。充電口は髪で隠し、定期検査の日は風邪だと嘘をついた。

十四歳の春、同級生が更衣室で背中の接続線を見つけた。

「人間じゃないの?」

翌日から机に磁石が置かれ、廊下で機械音を真似された。学校AIは「重大ないじめではない」と判定した。史織の心拍は一定で、涙量も少なかったからだ。

母は外装を最新型へ交換しようとした。継ぎ目を消し、もっと人間に見えるモデル。

「もう隠したくない」

史織は初めて反対した。

工房で彼女が選んだのは、透明な前腕と、手術のたびに消してきた傷跡を再現する皮膚だった。母は泣いた。

「そんなもの、見せなくていいのに」

「見せたいんじゃない。私が見たいの」

文化祭の日、史織は軽音部のドラムを叩いた。透明な腕の中で歯車が回り、人工筋肉が光った。演奏前、ギターの友人がその腕を見て「音、変わるかな」とだけ尋ねた。怖いとも綺麗とも言わなかった。その普通さに、史織は少し救われた。客席がざわつく。例の同級生は目をそらした。

史織は出力制限を外さなかった。速くも強くも叩けたが、仲間の音に合わせて、人間の手と同じ速さを選んだ。最後の一打で、透明な指に小さなひびが入った。

演奏後、保健室AIは交換を勧めた。史織は補修だけを頼んだ。

ひびは細い銀線になって残った。

それから彼女は、傷が増えるたび日付を書いた。人間らしく見える身体ではなく、自分が生きてきた履歴のある身体を選んだとき、史織は初めて「大丈夫」と言わなくてよくなった。