傷跡のない盾役
バシュアの盾には、目立つ傷がなかった。
敵の刃を受け止める前に味方の肩を押し、弓の射線から半歩ずらし、魔物が踏み込めない角度へ隊列を寄せる。攻撃は空を切るため、盾で防いだ記録が残らない。
成果板の値は4%。隊長カルザは、磨かれた盾を指で叩いた。
「傷がないのは戦っていない証拠だ。派手に受け止める盾役へ替える」
バシュアは盾を床へ置いた。重さではなく、立つ場所が盾なのだと説明したが、笑い声に消えた。
新しい盾役は、巨大な塔盾を構えて先頭へ出た。魔物の爪を受けるたび火花が散り、仲間は歓声を上げた。
だが塔盾の陰では、誰も周囲を見られない。横穴から小鬼が入り、魔術師の詠唱を止めた。剣士が助けへ向くと隊列が裂け、正面の獣が隙間へ突っ込んだ。傷を受け止めるほど、別の場所へ傷が生まれた。
装備を引き取りに来ていたバシュアは、入口から崩れる隊列を見た。彼は自分の盾を持たず、外れた扉板を拾った。
扉板を斜めに置くだけで獣の突進が壁へ逸れる。魔術師の腰を引いて射線を作り、剣士の踵を蹴って退路を塞ぐ小鬼へ向かせる。バシュア自身はほとんど攻撃を受けなかった。仲間も同じだった。
戦いが終わると、新しい盾役は傷だらけの塔盾を見つめた。派手に受けた攻撃の陰で、助けられなかった仲間がいた。彼はバシュアへ盾を差し出したが、バシュアは受け取らず、まず周囲を見るよう促した。守るとは壁になることではなく、壁が要らない位置を作ることだった。
カルザは塔盾の傷を英雄の証だと言い張った。
その瞬間、成果板が盾の傷ではなく、敵の攻撃軌道を表示した。過去に放たれた刃や矢は、バシュアが立つ位置を変えるたび、仲間から外れていた。何も起きなかった空間こそ、彼の働きだった。
カルザが隊長命令で表示を消そうとすると、権限欄が先に反転した。
「盾は前に立つ人ではありません」
バシュアは扉板を置き、仲間の中央へ立つ。
《防衛貢献・真正算定》
申告値:4% → 真値:97%
働き順位:首位 バシュア
役割更新:補助盾役 → 防衛隊長
旧隊長カルザ:バシュアの保護対象