六十一秒目の朝
鐘が鳴るたび、蒼馬は一分前の階段へ戻された。
十九回目だった。最初の三回は守護者へ突撃し、次の五回は盾役を替え、十回目には階段を崩した。作戦を変えても、五十九秒目に必ず誰かの悲鳴が響く。巻き戻れば傷は消えるが、死んだ者の痛みと記憶だけは蓄積した。蒼馬は、仲間の無邪気な「初挑戦だな」という声を聞くたび、少しずつ一人になっていた。
眼下では時計塔の守護者が槍を振り上げ、仲間のエルダが胸を貫かれる。次に蒼馬が首を刎ねられ、世界が白く反転する。
【死亡時、世界を六十秒巻き戻す】
【死亡した者のみ、巻き戻し前の記憶を保持する】
「次は左へ避けろ」
階段へ戻った瞬間、蒼馬が言うと、エルダは青ざめた。
「それ、前にも聞いた」
「覚えてるのか?」
「私も毎回、あなたより先に死んでるから」
二人だけが十九回分の恐怖を抱え、他の三人は初めての顔で作戦を聞いた。
守護者を倒すには六十五秒必要だった。だが六十秒以内に必ず誰かが死ぬ。死ねば失敗は消える代わりに、成功へ届く時間も消える。エルダが覚えていると分かったことで、蒼馬は初めて別の攻略を考えた。敵の体力ではなく、時計の向こう側へ到達する攻略だ。
二十回目、蒼馬は攻撃をやめた。
「戦わない。六十一秒、生きる」
仲間は反対した。守護者を放置すれば時計塔が作動し、世界が停止すると説明されていたからだ。それでも二人は、十九回分の槍筋を叫び続けた。右、伏せろ、三歩下がれ。誰も倒さず、誰も倒れないためだけの攻略だった。
五十八秒。エルダの肩を槍がかすめる。
五十九秒。蒼馬は彼女を引き寄せた。
六十秒。鐘が鳴る。
白い反転は来なかった。
六十一秒目、初めて朝日が塔の窓から差し込んだ。守護者は槍を下ろし、古い機械のように膝をつく。
「停止するのは世界じゃなかったんだ」
蒼馬は気づいた。守護者は敵ではなく、壊れかけた時間を一分ごとに復旧する装置だったのだ。
【メインクエスト《時計塔の守護者を討て》期限超過】
【隠しクエスト《六十一秒目》達成】
【安定した時間線を確認。緊急巻き戻しを終了します】
【警告――これ以降の死は、なかったことになりません】