六千回失敗した指輪

針生央路が恋人へ贈る指輪を注文すると、製造AIは二秒で百二十億通りを比較し、二人の関係を最も長持ちさせる形を提示した。

寸法も素材も完璧だった。だから央路は注文を取り消した。

二人の交際は、失敗が起きないことで評判だった。店は必ず好みに合い、旅行先では雨が避けられ、喧嘩になりそうな話題は会話支援AIが先に遠ざけた。恋人はある夜、「私たち、仲がいいのか、仲が悪くなる機会がないだけなのか分からない」と言った。央路は答えられなかった。だから、結果の保証されないことを一つ作ろうと思った。

彼は廃止された金工の講座を見つけ、工具を借りた。火は怖く、金属は言うことを聞かなかった。輪は閉じず、石は落ち、指先は傷だらけになった。失敗品を机へ並べるたび、生活AIは「同一目的を達成する代替手段があります」と告げた。

千個目で、恋人に見つかった。

「何してるの」

「まだ言えない」

「それ、全部ごみ?」

「今のところは」

六千二十一個目で、ようやく指にはまる輪ができた。少し歪み、内側には消せない傷が走っていた。

央路は夕暮れの河川敷で膝をついた。恋人は指輪より先に、包帯だらけの手を見た。

「結婚してください」

「どうして自分で作ったの」

「君に渡すまでの時間を、誰にも自動化されたくなかった」

長い沈黙のあと、恋人は首を横に振った。

「今は結婚したくない」

央路の胸で、費やした半年が崩れた。努力すれば報われると思っていた。完璧な社会で初めて味わった、不公平な答えだった。

恋人は指輪を掌に乗せた。

「でも、これを私の返事を買う代金にはしないで。預かってもいい?」

央路はうなずいた。

拒まれた夜、央路は失敗品を全部溶かそうとした。だが一つ一つに、火を強くしすぎた日、恋人と初めて言い争った日、諦めて眠った日の形が残っていた。彼は箱へ戻した。努力は相手を縛る権利にはならないが、自分が何を望んだかを知る時間にはなる。

それから二人は、結婚確率も最適時期も表示しない設定にした。喧嘩が増え、予定は何度もずれた。一年後も返事は出なかったが、央路はもう待つことを失敗だと思わなかった。

歪んだ輪は、選ばれていない未来のそばで、静かに光っていた。