内定辞退ちゃん

玲奈は頑張りすぎる。だから就職活動の管理は、同居している私が手伝った。

応募先一覧を共有し、面接日を色分けし、メールのパスワードも預かった。玲奈は「そこまでしなくていい」と言ったけれど、疲れて判断を誤るよりいい。

匿名アカウント「内定辞退ちゃん」は、玲奈が選ぶ会社を次々に告発した。

〈残業代が出ない〉

〈若い女性だけを受付に並べる〉

〈上司が退職者を脅した〉

私は投稿を見つけるたび玲奈へ送り、辞退を勧めた。玲奈が「でも評判はいい会社だよ」と迷うと、被害者の声を疑うのかと諭した。彼女はそのたび応募画面を閉じた。

なぜか私は、玲奈が結果を話す前に不採用を知ることがあった。メールを先に確認していただけだ。ある会社からの電話には、玲奈が入浴中だったので私が出て断った。

「守ってくれてるんだよね」

玲奈は笑った。寂しそうに見えたが、就活のせいだと思った。

春が近づいても内定はなかった。玲奈は面接用の靴を箱へ戻し、朝も起きなくなった。私は「しばらく一緒にいればいい」と言った。家賃は多めに払うし、食事も作る。玲奈は安心して泣いた。

その涙を見て、胸の奥が少しだけ軽くなった。学生時代から何でも先に決める玲奈が、初めて私を必要としていた。

ところが一週間後、彼女は段ボールを持ち帰った。

「別のメールで受けてた会社、決まった」

初めて聞く会社名だった。寮もあるという。私は祝おうとしたが、声が出なかった。

玲奈はテーブルに紙を置いた。「内定辞退ちゃん」のログイン履歴と、登録された回復用電話番号。私の番号だった。

「私が倒れたら困ると思って」

言い訳ではない。事実だ。玲奈は以前、仕事が怖いと言った。私はその言葉を忘れなかっただけだ。

「里帆が怖かったのは、私が働くことじゃないよね」

彼女は鍵を置いて出ていった。

私はアカウントを開き、下書きを消そうとした。けれど指は、公開ボタンの上で止まった。

次の投稿には、玲奈がまだ誰にも教えていない新しい勤務地が書かれていた。