写真の端で笑う人

撮影バッグの底から、古いインスタント写真が出てきた。瑛茉が高校生のころ、文化祭後の教室で撮った一枚だった。

今は結婚式のカメラマンをしている。翌日の撮影準備でレンズを拭いていたのに、写真を見た途端、教室の西日まで戻ってきた。

二年四組は世界各地の朝食を並べる喫茶店を開いた。閉店後、片づけを終えたクラスメイトたちが黒板前に集まり、記念写真を撮ろうと言い出した。カメラ係はいつも祈里だった。人を撮るのは好きなのに、自分が写るときだけ「目をつぶるから」と逃げる。

その日、瑛茉はカメラを奪い、棚に置いてセルフタイマーを押した。祈里の手首をつかみ、列の端へ連れていく。けれどシャッターの直前、祈里はするりと抜け、窓際へ逃げた。

現像を待つ白い時間、瑛茉は腹を立てていた。最後くらい一緒に写ればいいのに、と。

浮かび上がった写真に、祈里の姿はなかった。代わりに、窓ガラスの端へ小さな反射が残っていた。列から逃げたあと、皆が慌てるのを見て笑っている祈里。誰にも見られていないと思った顔だった。背景には片づけ途中の椅子が斜めに積まれ、黒板の文字も半分消えている。整った記念写真ではないのに、瑛茉には、その日の誰より祈里がそこにいる一枚に見えた。

「これなら、嫌じゃない」

祈里は写真を受け取り、しばらく眺めた。それから瑛茉へ返した。

あの一枚を最後に、祈里とは進学先が分かれ、連絡もいつしか途切れた。けれど写真の端の笑顔は、瑛茉に、人は正面から写るときだけそこにいるのではないと教え続けた。

翌日の花嫁は、事前の打ち合わせで「笑った顔が苦手です」と言っていた。集合写真の時間を短くし、支度中の自然な場面を多くしてほしいとも頼んでいた。瑛茉は写真をバッグへ戻し、撮影会場へ向かった。

支度室で、無理に笑わせる代わりに、鏡越しの横顔や、母親の手を握る指先も残していいと伝えた。花嫁は少し考え、「それなら」とうなずいた。

瑛茉はファインダーをのぞく。昔の教室を撮り直すためではない。今日ここにいる人が、自分で選んだ場所に写れるようにするためだった。