冷めたスープの功績
野営料理人ザムリが配ったスープを、聖騎士エルガは「冷めている」と地面へ捨てた。
「戦う前に腹を満たすだけの者へ、討伐報酬は要らん」
戦果盤の仮評価は2%。ザムリは反論せず、ほかの隊員へ木椀を渡した。薄い塩味の後に、舌がわずかに痺れる苦いスープだった。
討伐対象は、沼王バジリスク。濁った霧に毒が混じるため、全員が解毒薬を携えていた。エルガは最上級の薬を掲げ、料理など不要だと言い切った。
沼へ踏み込むと、霧は鎧の隙間から肌へまとわりついた。バジリスクが尾を振るたび、緑の靄が濃くなる。
それでも隊員たちは倒れなかった。
口の中が苦くなるたび、ザムリのスープが胃の底で温かくほどける。毒を消しているのではない。霧に含まれる麻痺成分を塩と薬草の膜で包み、身体へ吸収される前に留めていた。
エルガだけが剣を取り落とした。
「薬を……飲んだはずだ」
「その薬は、入った毒を消すものです」
ザムリは鍋の蓋を盾代わりにし、倒れた聖騎士を霧の薄い場所へ引きずった。
「今回は、入れないほうが早い」
身軽な隊員たちは麻痺せず、バジリスクの両目を同時に潰した。視線を失った沼王が暴れ、開いた口へ攻撃が集中する。ザムリは最後まで剣を抜かなかった。ただ空になった椀を集め、誰がスープを飲んだか確かめ続けた。
帰還後、エルガは自分の解毒薬が全員を守ったと申告した。
戦果盤は沼の毒素記録と隊員の体内反応を照合する。薬を飲んだだけのエルガには麻痺が発生し、スープを飲んだ者には侵入した痕跡さえなかった。
受付官が空の鍋を戦果盤へ載せると、鍋肌に残った薬草の膜が淡く光る。
ザムリは冷めたスープを自分の椀へ注ぎ、ようやく口をつけた。
仲間たちは空の椀をザムリの前へ戻し、誰もエルガの解毒薬へ手を伸ばさなかった。聖騎士が捨てた椀だけが泥で汚れている。受付官は指揮官用の銀匙を鍋の横へ置き、次の毒域遠征の献立をザムリへ尋ねた。
【再算定完了】
【ザムリ・討伐寄与率:2% → 93%】
【隊内順位:最下位 → 首位】
【役職更新:野営料理人 → 毒域攻略長】