勇者は明日から魔王軍

神官セフィリアは、城の衣装部屋から勇者レグナードの声を聞いた。

「明日から魔王軍に入る」

衣装係が答える。

「仲間には秘密ですね」

「ああ。勇者の剣も置いていく。もう、あいつらとは戦えない」

セフィリアは廊下の柱へしがみついた。

宿へ戻り、戦士と魔術師へ報告する。

「勇者が寝返るわ」

戦士が杯を落とした。

「昨日、魔王の悪口を言っていたぞ」

「偽装よ」

魔術師が腕を組む。

「最近、黒い服を採寸していた」

「魔族の制服だ」

「角の寸法も測っていた」

「完全に入団準備ね」

三人はレグナードを問い詰めた。

「明日はどこへ行く?」

「城だ」

「誰と会う?」

「魔王役」

「役?」

「いや、魔王だ」

「今、“役”と言いかけたでしょう」

「口が滑った」

セフィリアは息をのむ。

「裏切りを認めるのね」

「まだ言えない」

「何を条件に?」

「夕食と銀貨五枚」

戦士が怒鳴る。

「安すぎる! 俺たちの絆は定食以下か!」

「昼食も付く」

「値上げしても許さん!」

レグナードは説明を避けた。

「明日になれば分かる」

「魔王城へ案内する気?」

「観客席へ」

「公開処刑?」

「拍手してほしい」

「裏切り者が承認欲求まで!」

三人は王へ報告し、城門を封鎖させた。騎士団がレグナードを囲む。

王が尋ねる。

「魔王軍へ入るとは真か」

「一日だけです」

「一日なら裏切りでないと?」

「終演したら戻ります」

「終演?」

「だから、それはまだ秘密で」

そこへ演出家が走ってきた。

「勇者様、何をしているんです! 明日の和平祭の芝居、魔王軍兵士が一人足りないから代役を頼んだでしょう!」

衣装係も黒い鎧と付け角を抱えて現れた。

演出家は続ける。

「最後に勇者役の子どもへ負けるだけです。剣は危ないので置いてきて、と」

王も騎士団も黙った。

セフィリアが尋ねる。

「“あいつらとはもう戦えない”は?」

レグナードは仲間三人を指した。

「お前たち、稽古でも本気で殴るから」

王は封鎖した城門を開けさせた。

勇者が寝返ったのは、戦争ではなく配役だった。