勲章より重い巡回章

山村を洪水から救った功績で、守備隊長ボルガ・ゼフに真紅の勲章が授けられることになった。

謁見の間で、ボルガは胸を張る。

「濁流の中へ飛び込み、私が水門を開きました。部下は皆、恐れて動けなかった」

列の末尾にいた従騎士ユーディト・カーンへ、彼は冷たい目を向けた。実際に水門へ飛び込んだのは彼女だった。ボルガは酒場から戻ると、泥だらけのユーディトに口止めを命じ、報告書を奪った。

王女が穏やかに尋ねた。

「隊長が現場にいた証しはありますか」

「もちろん。この巡回章がございます」

ボルガは腰の銀章を外し、誇らしげに差し出した。守備隊員は任務中、位置を記録する巡回章を携帯する。彼はそれを証拠にすれば完璧だと思っていた。

「記録を開いても?」

「どうぞ。私の勇気が数字で分かるでしょう」

王女が銀章を水晶台へ置く。

空中に村の地図が現れ、青い光点が一つ灯った。光点は洪水の始まった刻から終わるまで、村外れの《酔い鴉亭》を一歩も動かなかった。

広間がざわめく。

「記録の故障です!」

ボルガが叫ぶと、王女はもう一度銀章へ触れた。巡回章には、携帯者が発した緊急命令も残る。

『ユーディト、おまえが行け。俺の章は持たせん。死んだら命令違反にする』

杯のぶつかる音と、ボルガの笑い声まで響いた。

続いて別の小さな光点が、水門まで一直線に走る。従騎士用の鉄章だった。

――携帯者、ユーディト・カーン。水門到達、第三刻十二分。

ユーディトは何も言わず、泥で傷ついた自分の鉄章を差し出した。王女は真紅の勲章をボルガの前から取り上げ、彼女の前へ置く。

ボルガは膝をついた。

「待ってください。隊長として命令したのだから、功績は私にも――」

王女は真紅の勲章の留め具を外し、ユーディトの傷だらけの鉄章へ重ねた。華やかな宝石より、濁流で歪んだ鉄のほうが重く見えた。守備隊の兵たちは、隊長ではなく彼女の後ろへ静かに並び直した。

近衛長が封印付きの命令書を開いた。

「守備隊長ボルガ・ゼフ。職務放棄、虚偽報告、部下への危険強要により、ただちに解任し拘束する」