十三秒のつくね

 橘高央の提案は、十三秒で終わった。

 正確には、部長が試作画面を見ていた時間が十三秒だった。「今期は余裕がない」の一言で次の議題へ移り、三週間分の残業は会議室の壁に吸い込まれた。会議のあと、同席していた課長は「タイミングが悪かったな」とだけ言った。高央はその言葉に頷きながら、タイミング以外の欠点を聞く勇気も持てなかった。

 高央は帰宅途中、資料を削除しようとしてやめた。捨てれば楽になる気がしたが、捨てたことを明日から後悔する気もした。

 狭い居酒屋の引き戸を開けると、店主が一人で串を打っていた。客は高央だけだった。

「つくねを、塩で」

 店主は一本の串を炭火へ置いた。

 脂が落ちて、しゅっと火が鳴る。表面が焼けるにつれ、鶏肉と炭の匂いが混じった。串を返すたび、丸いつくねの焼き色が少しずつ増え、割った中から透明な肉汁と湯気がにじんだ。

 高央はすぐに噛みつき、舌を焼いた。

「早かったですね」

 店主が言った。

「今日、十三秒で切られたので」

「こっちは十三秒だと、生ですね」

 店主は笑わず、次の串にも手を伸ばさなかった。一品だけという約束を守るように、炭をならしている。

 高央はスマートフォンの試作画面を開いた。部長に見せたのは機能の一覧だった。何が便利なのかを説明する前に、予算の話へ入ってしまった。十三秒しか見てもらえなかったのではなく、十三秒で見る理由を渡せなかったのかもしれない。

 明日、三分だけの動画を作ろう。機能を説明するのではなく、今は二十分かかっている作業が二分で終わるところを見せる。月曜にもう一度時間をもらえるか、直属の課長へ頼む。断られたら、その動画を異動面談の資料にする。

 企画が通るとは限らない。今期の予算が増えるわけでもない。十三秒で決めた部長が、三分なら考え直す保証もない。

 それでも、削除するのはそのあとでいい。見せ方を変えても届かなければ、初めて企画そのものを疑えばいい。

 つくねの中心は、外側よりずっと柔らかかった。噛むたびに塩と熱い肉汁が広がり、高央は最後まで急がずに飲み込んだ。