千の未来を見る弓兵と一粒ゼリー

菓子店〈一番星〉に入ってきた弓兵エファルは、扉を閉めるだけで三度迷った。

右手で閉めれば蝶番が外れる未来。左手なら袖が挟まる未来。開けたままなら風で瓶が倒れる未来――彼の目には、些細な動作の先が千通りに分かれて見える。

本来は希少な未来視だ。だが見えすぎるせいで矢を放てない。命中する未来と外れる未来、味方を救う未来と傷つける未来が同時に重なり、指が止まる。明日の王国弓技選抜を辞退すれば、「予言だけの臆病者」という評判が確定する。

昨日も獣に襲われた荷車を前に、助けられる未来を十二通り見た。だが同時に失敗する未来を百以上見てしまい、矢を放つ前に別の弓兵が獣を倒した。礼を言われたのは予言を伝えたことだけ。弓を握る指に残ったのは、撃たなかった者だけが抱く重さだった。矢筒には、使われないままの矢がきれいに揃っていた。

店主ユスラは白い皿の中央に、紺青のゼリーを一粒置いた。中には銀の星が一つだけ浮いていた。

「一粒星のゼリーです。食べている間、選んだ未来だけを残します」

「外れた未来だったら?」

「選ばない人より、外して次を射る人のほうが強いでしょう」

エファルは長く黙ったあと、ゼリーを口に入れた。冷たい甘さが舌で溶ける。壁、棚、窓、店主の姿から無数に伸びていた光の枝が、一本ずつ消えた。

最後に残ったのは、窓の外から風に飛ばされてくる赤い木の実だけだった。

エファルは腰の短弓を抜き、飾り矢をつがえた。迷いはなかった。弦が鳴り、矢は開いた窓を抜け、木の実の細い柄だけを断った。実はそのまま店内へ飛び込み、ユスラの空いた皿にころりと落ちた。

「一つしか見えない」

「一つあれば、射てます」

彼は初めて自分から未来を選ぶように頷いた。代金の銀貨を二枚置き、うち一枚を皿の木の実の下へ滑らせる。

「明日の分と、優勝したあとの分だ」

扉の前でも、もう手は止まらなかった。

エファルが選んだ一度の動作で扉が閉じた直後、ちりん、と新しい未来を告げるベルが鳴った。