午前一時の洗濯券

瑞穂は洗濯物を色別に分ける。妹の乃彩は、洗濯機が空いている時間を優先する。共同生活で一番もめるのは、実家みたいな大問題ではなく、濡れたタオルの置き場所だった。

午前一時、瑞穂が歯を磨いていると、乃彩が紙袋を抱えて帰ってきた。中身はワンピースとジャケット。泥水が裾まで跳ねていた。

「何それ」

「会社の先輩の。駅で泣いてたから貸した」

「返ってきたの?」

「うん。謝られた。泣きながら」

瑞穂は洗濯表示を見た。水洗い不可。クリーニング。乃彩は財布を逆さに振るまねをした。月末まであと四日、二人の口座は似たような軽さだった。

「貸す前に考えなよ」

「考えたら貸せなかった」

「それでいいの?」

「よくないけど、あのときはそれしかなかった」

瑞穂は正論を言うのが得意で、乃彩は正論の外側に手を伸ばすのが早い。どちらも疲れる生き方だと思う。

二人は近所の二十四時間コインランドリーへ行った。洗える服ではないと分かっていて、乾燥機の前のベンチに座った。店内には「宅配クリーニング受付中」と書かれた端末がある。瑞穂は料金を調べ、乃彩は先輩に送る文面を打った。

「請求するの?」

「半分だけ。残りは私が勝手に貸した分」

「半分って何」

「相手が受け取れる金額」

瑞穂は財布から洗濯プリペイドカードを出した。残額は千二百円。乃彩も定期入れから同じカードを出した。二人は端末に一枚ずつ通し、足りない分を現金で払った。

帰り道、瑞穂は紙袋の持ち手を片方持った。乃彩は反対側を持った。服は重くない。ただ、誰かの夜を少しだけ吸って、袋の底で静かに湿っていた。

マンションに戻ると、エレベーターの鏡に二人の眠そうな顔が映った。瑞穂は「次からは先に相談して」と言い、乃彩は「次がないのが一番」と返した。合意にはならなかった。でも紙袋の持ち手を離すタイミングだけは、部屋のドアの前まで同じだった。

翌日、先輩から振り込まれたのは半額より少し多かった。乃彩は返そうとし、瑞穂は端数だけ受け取れと言った。最後は二人で、端数を次の洗濯券に替えた。