卒業式の姉

弟の卒業式に、姉は行かないつもりだった。

仕事を辞めて実家へ戻り、半年。

親戚から理由を聞かれるのが嫌で、家族の行事を避けていた。

弟から届いた招待状へ、

「代わりに行って」

と書き、四つ折りにした。

すると同じ顔、同じ服の姉が部屋へ現れた。

招待状を折ったままにしておけば、もう一人の自分がその行事を代わり、本物は会場へ入れない。

姉は式場の外まで行った。

帰るつもりだったが、体育館の窓から代役が見えた。

姿勢よく座り、弟へ笑い、親戚の質問にも落ち着いて答えている。

「今は次の仕事を探しています」

本物なら言葉に詰まる場面だ。

式後、弟が代役へ卒業証書を見せた。

「おめでとう」

代役は優しく言った。

弟は首を傾げた。

「それだけ?」

「頑張ったね」

「姉ちゃんなら、証書の筒で頭を叩く」

代役は困った顔をした。

弟は辺りを見回し、体育館の外にいる本物を見つけた。

姉が扉へ近づいても、招待状が折られているため中へ入れない。

弟は代役の鞄から招待状を取り出し、広げた。

もう一人の姉が消え、本物の前の扉が開いた。

「何で外にいるの」

弟は怒っていた。

姉は、

「恥ずかしかったから」

と答えた。

「何が」

「仕事を辞めたこと。何も決まってないこと」

「知ってる」

「親戚は知らない」

「僕の卒業式だよ。親戚の面接じゃない」

弟は証書の筒で姉の頭を軽く叩いた。

姉も奪い返し、弟の肩を叩いた。

二人で笑った。

親戚には結局、次の仕事を聞かれた。

姉は代役のように整った答えを言えず、

「まだ決めてません。今は少し休んでます」

と話した。

困った沈黙のあと、叔母が、

「休めるなら休みなさい」

と言った。

帰宅すると、招待状には「代わりに行って」の文字が消えていた。

弟はそれを卒業アルバムへ挟んだ。

「また代役を出したくなったら?」

姉が尋ねる。

「先に僕へ言って」

「来てほしいって?」

「来てほしくない日もある。だから聞いて」

姉はうなずいた。

立派な姉の役を代行する存在より、恥ずかしいまま来て、昔どおり叩き合える姉の方が、その日の写真にはよく似合っていた。