古い薬から扉を出る

月末になるたび、薬師組合は治癒薬を捨てていた。

今月も二十四瓶。棚の奥で期限を越え、紫色に濁っている。損失を出した責任を問われ、若い調合師が追放されそうになった。

「新しく届いた瓶から売るのが、客への誠意だ」

捨てられる薬の中には、山村から三日かけて買いに来た母親へ「在庫切れ」と断ったものまであった。新しい瓶は手前から売れ、古い瓶は奥で腐る。組合は不足を理由に値上げしながら、自分たちの棚で薬を殺していた。

朔臣が並べ替えを始めると、古参薬師は「古い薬を客へ押しつける気か」と罵った。彼は一本ずつ色と匂いを確認し、期限内の物だけを古い順に置いた。劣化した物を売るのではない。劣化する前に出す。その違いを口で説明せず、毎朝の残数だけ板へ刻む。赤紐が減るにつれ、欠品の札も、廃棄箱の悪臭も消えていった。

組合長はそう言った。朔臣は、前世の物流倉庫で何度も聞いた言葉を思い出した。新しい物から出せば、古い物は永遠に奥へ残る。

彼は棚を空にし、瓶の底に書かれた調合日だけを見た。古い瓶を手前、新しい瓶を奥へ。入口側からしか取れない細い棚に並べ直す。

講釈はしなかった。赤い紐を今日までの瓶、青い紐を来月までの瓶に結び、売れた数だけ壁へ線を引いた。

七日後、赤紐の瓶は六十八本から三本になった。青紐は一度も先に開けられていない。

月末。捨てる瓶は、零。

組合長は信じられず、棚の奥まで腕を入れた。出てきたのは最も新しい透明な薬だけだった。

追放されるはずだった調合師が、先月の損失表を突きつける。二十四瓶で銀貨四百八十枚。それが今月は一枚も失われていない。

ちょうど軍病院の買付官が現れ、期限の揃った瓶を百本欲しいと言った。朔臣は手前から順に箱へ入れる。すべて同じ週の調合で、一本も濁っていない。

買付官は箱を封じた。

「毎月百本、この並べ方ごと納めてくれ」

組合長は朔臣へ全倉庫の鍵を差し出す。

「本日付で在庫管理長だ。二度と古い薬を奥へ眠らせるな」