合鍵のスタンプ

由良が両親と昼食を取っている最中、家族グループに鍵のスタンプが届いた。送り主は父だった。

「これ、どういう意味?」

「来週、そっちの近くで用事がある。留守でも荷物を置いておくよ」

父は悪びれず、焼き魚の骨を外している。由良の部屋の合鍵は、就職した年に母が「何かあったときのため」と持っていった。最初は水漏れの確認、次は野菜を置くため、その次はカーテンを洗うため。家族グループに鍵のスタンプが来るたび、由良は自分の部屋へ先回りされる気がした。

「来週は入らないで」

「留守なら迷惑かけないだろ」

「留守のときに入られる方が困る」

母が箸を置く。「親に見られて困るものでもあるの?」

その言い方で、由良の肩は二十歳のころと同じ高さまで固くなる。けれど今日は、笑って流す代わりに鞄から小さな封筒を出した。中には新しい合鍵ではなく、鍵返却用のレターパックが入っている。

「今持ってる鍵を、これで返して」

「大げさだな」

「大げさにしないと返してくれなかったから」

父の顔から笑いが消えた。母は「家族なのに」と言う。由良は味噌汁を一口飲み、家族グループに文章を打った。

由良 訪問は前日までに確認してください

由良 返事がないときは来ないでください

由良 緊急時は管理会社へ連絡してください

送信すると、父のスマートフォンがテーブルの上で鳴った。鍵のスタンプが、文章のすぐ上に取り残されている。

「これじゃ、他人みたいだ」と父が言った。

「他人には合鍵を渡さない。家族にも渡さない。それだけ」

食事は気まずいまま終わった。和解らしい言葉は一つもなかった。それでも店を出るとき、父は封筒を背広の内ポケットへ入れた。

翌朝、家族グループにレターパックの追跡番号だけが届いた。由良はお礼のスタンプを押さず、「受け取ったら連絡します」と返した。追跡画面の配達予定は翌日になっていた。父の手元を離れた鍵が、今どこにあるかを知るのは、これが最後でいい。

鍵の形をした絵文字は使わなかった。