呪いで笑えない道化師の朝露丸
薬屋《小鳥の巣》へ来た男は、泣きながら笑っていた。
正確には、顔だけが笑い、喉からは泣き声が出ていた。
「宮廷道化師のパルモです」
店主ミレッタが名を言い当てると、男は派手な帽子の鈴を鳴らした。
「有名になったものだ。王子を泣かせた道化として」
三日前、嫉妬した魔術師に呪われたらしい。面白いと思うほど胸が締めつけられ、笑い声が嗚咽へ変わる。昨日の舞台では子どもたちが泣き、楽団まで演奏を止めた。明日は病床の幼い王子が、彼の芝居を待っている。
「笑わせられなければ、辞める」
「あなたが笑う必要は?」
「王子は、私が先に笑うと安心するんだ。薬を飲むのが怖い夜も、私の笑い声を合図にしている」
悩みは一つ。ならば薬も一つでいい。
ミレッタは朝露を固めた丸薬を、小皿に一粒置いた。
「朝露丸。呪いを壊す薬ではありません。呪いが奪った最初の笑いだけ、取り返します」
「一度きり?」
「一度、本当に笑えれば、呪いのほうが自分の居場所を見失います」
パルモは丸薬を飲んだ。何も起きない。
「詐欺なら、せめて甘く――」
そのとき、店の奥から薬棚を掃除していた箒が飛び出し、彼の長い靴へ突っ込んだ。パルモは避けようとして反対の靴を踏み、派手に尻餅をつく。帽子だけがふわりと飛び、ミレッタの頭へ載った。
沈黙のあと、パルモの腹が震えた。
「薬師殿、その帽子……似合わなさすぎる」
喉から、乾いた一音がこぼれる。
次いで、堰を切ったような笑い声が店いっぱいに弾けた。泣き声ではない。窓硝子まで明るく震える、本物の笑いだった。帽子の鈴が遅れて鳴り、まるで笑い声へ拍手している。
彼は笑い疲れて床へ座り込み、目尻を拭った。
「これなら明日、王子より先に笑える」
金貨を一枚置き、さらに小さな銀貨を帽子から振り出す。
「追加でもう一粒。今度は自分が笑うために取っておきたい」
「一度で十分です」
「では、その一粒は次に笑えなくなった誰かへ」
パルモが去ると、店先に彼の笑い声だけがしばらく残った。
ミレッタが朝露丸の札へ「残り七粒」と書き足した瞬間、鈴が鳴る。
扉の向こうから、泣き声に似た笑いが聞こえた。