四区の段ボール

鷲尾直純の母が亡くなり、県営住宅を明け渡す日、木伏志門は約束より二十分早く来た。

「運ぶ物、印つけた?」

「赤が捨てる。青が持ってく」

「お前、昔から引き継ぎが雑だな」

高校の駅伝で、直純は三区、志門は四区だった。最後の大会、直純は中継所へ来なかった。母が倒れたとだけ顧問に伝え、翌週には退部した。志門は一人で待った襷を、その後一度も返していない。

二人は箪笥を解体し、食器を新聞紙で包んだ。直純は赤いテープを貼りすぎた。母の湯呑みも、古いアルバムも、陸上靴も捨てる側へ置く。志門は何も言わず、赤い箱からいくつか抜き、青い箱へ移した。

「勝手に選ぶな」

「重さの配分だ」

階段は五階分あった。直純が先に下り、踊り場で振り返る。母は駅伝の日、沿道の同じ曲がり角に立っていた。志門はその姿を覚えていたが、直純には今まで一度も話さなかった。志門は箱の底を押し上げ、息を合わせた。中継所で渡せなかったものを、何度も手渡すようだった。

最後に残ったのは、母が直した古い襷だった。端に直純の名字が縫いつけられ、その裏へ小さく志門の名字もあった。母は大会の日、二人分の弁当を作っていたのだと、直純は初めて知った。

「持ってけ」

「お前のだろ」

「受け取る側だった」

志門は襷を畳み、赤でも青でもない無地の箱へ入れた。二人はその箱を一緒にトラックへ運んだ。

直純の次の住所はまだ決まっていなかった。母の介護で仕事を辞め、敷金も足りない。荷物は倉庫へ預けるつもりだった。伝票を書こうとすると、志門がペンを奪い、自分のアパートの住所を書いた。

「一か月だけ置かせてくれ」

「箱だけな」

「俺は?」

「お前がいないと、どれが赤か分からん」

冗談の顔ではなかった。直純は伝票の宛名欄に自分の名字を書きかけ、線を引いた。代わりに二人の名字を並べた。トラックの助手席には、志門が買ってきたおにぎりが二つ置かれていた。

部屋を出る前、直純は玄関の赤い箱から陸上靴を拾い、青い箱のいちばん上へ入れた。