四階半の転入生
日比谷柊成は、閉鎖された高校で火災報知器を撤去していた。二十九歳。校舎は三階建てなのに、受信盤では「四階・零組」の感知器が断続的に作動している。
作業員チャットに、元用務員から転送された注意があった。
《階段の先に「四年零組」の札が現れても、その扉を開けてはいけない》
戦時中、この学校には卒業式を迎えられなかった生徒を一年間だけ四年生として名簿へ残す慣習があったという。疎開先で消息を絶った者の机も、誰かが卒業させるまで片づけなかった。
柊成は三階廊下を点検した。突き当たりには壁しかないはずだが、非常灯が一つ増え、その下から上り階段が続いている。端末の高度表示は変わらない。
階段の先に、木札の掛かった扉があった。
《四年零組》
内側で火災ベルが鳴っている。誤報を止めるには感知器を見る必要がある。柊成は一度だけ、その扉を開けた。
教室には四十の机があり、全員が伏せていた。黒板の日付は昭和二十年八月十五日。教壇の教師だけが顔を上げ、柊成へ新しい出席簿を差し出した。
「転入生は、卒業までここです」
柊成は扉を閉め、階段を駆け下りた。振り返ると壁に戻っていたが、工具箱には見知らぬ学生帽が入っていた。
撤去したはずの火災受信盤は、深夜も会社へ信号を送り続けた。発報地点は毎回違うのに、教室名は四年零組のまま。信号へ添付された静止画では、机に伏せた生徒が一人ずつ顔を上げ、そのたび空席が前列から埋まっていく。最後の空席には柊成の工具箱が置かれ、名札だけが翌朝の出社時刻を示していた。
翌朝、会社のオンライン会議へ入ると、参加者一覧に《四年零組》が追加された。カメラは無人の教室を映し、最後列に柊成と同じ作業服の男が座っている。柊成が会議から退出しても、その男は残った。
社員証アプリに通知が出た。
《日比谷柊成さんが教室へ入室しました》
《授業中のため、本人の退室操作は受け付けません》
直後、会社のスピーカーから始業のチャイムが鳴った。