在庫外商品課の青い箱
物流センターで、バーコードを読んでも商品名が表示されない荷物は、在庫外商品課へ送る。箱を開けず、午前四時四十四分に重量を量り、表示された担当者が受領印を押す。担当者名が自分なら、荷物を一晩だけロッカーへ保管しなければならない。誰も課の作業場を知らないが、青い台車だけは倉庫の間を勝手に走っていた。
夜勤の垣谷は、その台車を避けるのがうまかった。在庫外の商品には、失くした傘、捨てた写真、飼い主より先に死んだ金魚の餌などが混じる。担当者になった者は翌朝たいてい無口になる。
四時四十四分、青い箱が計量器へ載った。重さは二・三キロ。画面に〈担当 垣谷〉と出た。
箱の側面には、幼い字で「うみのもの」と書かれていた。垣谷は七歳の夏、父と海で拾ったものを青い菓子箱へ詰めた。貝殻、丸いガラス、錆びたねじ。父が家を出た日に箱も消えた。
規則どおり、彼は開けずに受領印を押し、ロッカーへ入れた。中から、乾いた貝殻同士が触れる音がした。
休憩中、母から電話が来た。父が亡くなったと、知らない病院から連絡があったらしい。二十年会っていない人の死を、母は天気のように伝えた。
「葬式、行く?」
垣谷は倉庫の時計を見た。在庫外商品は始業時刻まで動かせない。箱を置いて行けば規則違反になり、全商品の棚番が一つずつずれる。
「仕事があるから」
そう答えると、母は安心したように電話を切った。
朝八時、青い台車がロッカーの前で待っていた。垣谷は箱を載せた。台車は在庫外商品課ではなく、通常出荷ラインへ向かった。伝票の届け先は父が最後に住んでいた病室。受取人欄には垣谷の名がある。
自分宛ての荷物は出荷してはいけない。垣谷は非常停止ボタンへ手を伸ばした。しかし画面には〈出荷済み〉と表示され、台車だけが空で戻ってきた。
ロッカーを開けると、青い箱はまだ中にあった。封は切れていない。重量は二・二キロに減っていた。
床に、小さな巻き貝が一つ落ちている。耳へ当てると波の音ではなく、古い自転車の補助輪が外される音がした。
巻き貝の口から、父のものらしい灰色の鍵が、濡れた舌のようにゆっくり押し出されてきた。