塩で眠る旗

デメトリオ・カッサは緑旗を塩水へ沈め、石臼で押さえた。

海城の旗は風を見るためにある。沖の敵船も、城壁の旗で入江の風を読んでいた。夕方、山から海へ吹く風が止めば、櫂で港口を抜ける。止まる前に入れば、横風に押されて暗礁へ腹を裂かれる。

だが濃い塩水を吸わせた旗は、風が吹いても垂れたままになる。

「軍旗を雑巾にしたのか」

港将が言った。

デメトリオは臼を退けた。緑布は死人の舌のように重い。

「沖から見れば、凪です」

「敵船にも風は当たる」

「沖はまだ南風。港口だけが山風です。奴らは入り口の癖を知りません」

敵の案内人だった漁師は昨日捕らえた。今夜、敵は旗だけを信じる。

港将は濡れた旗を指でつまんだ。

「入って来た後、火船を出す合図はどうする」

デメトリオは胴に巻いた赤い薄旗を見せた。

「緑を切り落とし、これを上げます」

「旗竿へ近づけるのはおまえ一人だ。敵の弩が狙うぞ」

「旗番は、見られるために立つ者です」

デメトリオは漁師の倅だった。旗より波を見て育ち、兵になってからも風だけは上官より信用した。港将はそれを無礼と呼び、今夜だけは策と呼んだ。呼び名が変わっても、風向きは変わらない。

日が海へ沈んだ。デメトリオは塔上に塩旗を掲げた。山風が頬を打ち、松明の炎を沖へ倒す。それでも緑旗は竿に貼りつき、ぴくりとも動かない。

沖で白帆が一枚、こちらを向いた。次いで十二隻。敵は凪と読んだ。

船列が港口へ入る。先頭船の櫂が水を揃えて叩く。半ばまで来たところで山風が帆の横腹を殴り、船首を暗礁へ押した。木が裂ける音が、城壁まで届いた。後続は止まれず、前船へ重なる。

敵の弩矢が塔へ飛び始めた。一本がデメトリオの耳を削り、一本が緑旗を竿へ縫いつけた。切り落とすには、その矢ごと断たねばならない。

彼は胸壁から身を出し、短剣で濡れ布を切った。重い旗は海鳥の死骸のように落ちる。赤旗を結ぶ指が塩で滑った。

下の水門では、油を満たした火船が待っている。

港将が剣を抜いた。

「港鎖を上げろ。火を出せ」

赤い旗が山風を捕らえ、初めて大きく開いた。