墓守と夜目猫の耳掃除

夜目猫の鳴き声を聞いた者は、三日以内に死ぬ。

墓地の村ではそう言われ、黒い猫型魔獣が石碑の上に現れるたび、住民は戸を固く閉ざした。

墓守の巴は迷信を信じない。だが、死者を見送る仕事をしているせいで、「おまえが呼び寄せた」と何度も責められてきた。

その夜も夜目猫は月へ向かって不気味な声を上げていた。

巴は提灯を置き、じっと耳を見る。左耳だけが下がり、鳴くたびに頭を傾ける。ときおり後足で掻こうとして、届かずに石碑へぶつかっていた。

「死の予告じゃない。耳が痛いんでしょう」

猫が金の瞳を向ける。暗闇の奥で体が何倍にも膨らんだように見え、隠れていた村長が「近づくな」と叫んだ。

巴は素手で武器を持っていないことを見せた。それから自分の耳を指し、薬箱から細い竹製の匙を出す。

「一度だけ見せて。嫌なら噛んでいい」

夜目猫は低く唸ったが、逃げなかった。

巴が耳の付け根を撫でると、張っていた体から少し力が抜ける。耳道の奥には、墓地に群生する返し草の種が三つ食い込んでいた。一つ抜くたび猫の爪が土を掘る。それでも巴の腕には触れない。

最後の種を取り出し、温めた油を一滴垂らす。巴は自分の膝へ猫の顎を載せ、油が奥へ馴染むまで耳の根元をゆっくり揉んだ。夜目猫の喉から、ごろごろという意外に幼い音が漏れた。

夜目猫は頭を振った。今度の鳴き声は短く澄み、墓石の間を風鈴のように抜けていった。

すると古い墓石の文字が淡く光り、埋葬場所を失っていた名札のない遺骨の名が浮かび上がる。村長は腰を抜かした。夜目猫は死を呼ぶのではなく、忘れられた死者を見つけていたのだ。

巴の掌に黒曜石色の瞳の印が現れる。

「私を相棒にするの?」

猫は答えず、石碑から飛び降りた。大きな頭を巴の腿へ載せ、耳を触れと言わんばかりに傾ける。

指を差し入れた首回りの毛は夜気を閉じ込めたようにひんやりしていたが、皮膚の下には穏やかな熱があった。膝を沈ませる重さは墓石より生き生きとして、巴は初めて、墓地の夜を寂しいと思わなかった。