墓守にだけ聞こえた冥路犬の声

日没後の共同墓地へ黒い巨犬が現れた。

額に白い星を持つ冥路犬。死者の魂を迷わせない聖獣だが、生者の名を三度吠えると命を奪うとも恐れられている。

町の鐘が鳴り、兵士たちは墓地の外から火矢を構えた。

老墓守グレイヴは、犬が自分の小屋の前で伏せているのを見つけた。低い唸りが土を震わせる。だが長年、泣く遺族と付き合ってきた彼には、それが怒声ではなく、歯を食いしばる音に聞こえた。

「明かりを上げろ。あいつは背中を見せられんだけだ」

誰も従わないので、グレイヴはランタンを持って一人で門をくぐった。

冥路犬が顔を上げる。口の端から青い火が漏れた。

「噛むなら左腕にしてくれ。右は墓穴を掘るのに使う」

冗談を言いながら横へ回ると、厚い首毛の下に折れた矢羽が見えた。誰かが森で射たのだろう。矢は肩へ斜めに刺さり、動くたび毛の奥で軋んでいる。

さらに矢柄には返しがあった。無理に抜けば肉が裂ける。

グレイヴは犬の鼻先へ、自分の夕食の骨付き肉を置いた。

「食っている間だけ、背中を貸せ」

冥路犬は肉ではなく、まず老人の手の匂いを嗅いだ。それから一口で骨ごと噛み砕く。

その隙にグレイヴは矢柄を短く切り、傷口を広げぬよう返しの向きを確かめた。犬が唸るたび「分かってる、痛いな」と声をかける。最後に矢尻が抜けると、青い血が流れた。

灰止め草を詰め、墓碑を磨く柔らかな布で肩を巻く。

兵士の隊長が柵越しに叫んだ。

「離れろ、墓守! 今なら射線が通る!」

冥路犬は立ち上がった。兵たちへ一度だけ牙を見せ、次いでグレイヴの小屋へ鼻先を向ける。

老人が戸を開けると、巨体は当然のように中へ入り、狭い寝台の前で丸くなった。そしてグレイヴが椅子へ腰を下ろすや、頭を膝に押しつける。

額の星が灯り、同じ形の印が老人の掌へ浮かんだ。

グレイヴは笑って首毛を撫でた。夜そのもののような毛は、触れれば驚くほど柔らかい。両膝へかかる重さは墓石よりずっと温かく、長く一人だった小屋を、たちまち狭くしてくれた。