夏服で会った転校生
六月一日の朝、転校生だけがブレザーを着ていた。
北の町から来たらしく、前の学校ではまだ冬服だったという。教室中が白い半袖なのに、一人だけ紺色で、本人は教壇の前で暑そうに立っていた。
自己紹介が終わると、先生が私へ言った。
「購買へ案内してやって」
購買の夏服は取り寄せで、一週間かかる。転校生は値札を見て、少し困った顔をした。
私はロッカーに入れていた予備のシャツを思い出した。母が「汗をかいたとき用」と持たせたものだ。
「着る?」
保健室の更衣スペースで渡すと、転校生はしばらく白いシャツを見つめた。
「借りたら、急にここの生徒に見えるかな」
「見えると思う」
「それ、ちょっと怖い」
前の学校の友達と別れて三日。新しい制服を着れば、前の場所を脱いでしまうように感じるらしい。
私は自分の襟をつまんだ。
「私も去年、これ着た初日は知らない人みたいだった」
「今は?」
「洗濯で少し縮んだ私」
転校生が笑った。
着替えて出てくると、ボタンを一つ掛け違えていた。私は直そうと手を伸ばし、途中で止めた。
「自分でやる?」
「お願い」
白い布越しに、緊張で固い肩が分かった。
教室へ戻ると、誰かが「もう馴染んだ」と言った。転校生は曖昧に笑った。
昼休み、私の机へ小さな紙袋が置かれた。中には前の町の菓子と、短いメモ。
『今日だけ、ここの人に見える練習をします』
一週間後、注文した夏服が届いた。借りたシャツは洗って返された。きれいに畳まれ、胸ポケットへ写真が入っていた。
転校前の学校で、冬服の友達と並ぶ転校生。
裏に書かれていた。
『前の季節も、脱がなくていいと分かった』
その日の放課後、私たちは新しい夏服で同じ写真を撮った。
転校生はまだ少しよそよそしい顔だった。けれど、襟のボタンはもう一人で正しく留めていた。
夏休み前には、転校生は私の予備シャツを借りたことを笑い話にした。馴染むとは前を忘れることではなく、新しい服にも自分の皺をつけることだった。
翌朝から、彼女は私を名前で呼んだ。