夜勤の三段重ね

警備員の宗介は、夜勤の日だけ三段の弁当箱を持っていく。

一段目は夕方六時、二段目は深夜零時、三段目は明け方四時に食べる。妻の芹那が「一度に食べるから太る」と分けたのが始まりだった。

夕方の段には生姜焼き。詰めたばかりの肉はまだ少し温かく、蓋を開けると甘辛い匂いが休憩室に満ちた。

零時の段には小さなおにぎり二つ。巡回を終えたあと、冷たい麦茶と一緒に食べる。ビルの空調が止まり、遠くの自動販売機だけが唸っている時間だ。胡麻塩を指につけながら、宗介は昼間には見えない窓ガラスの自分を眺める。

三段目は日によって違う。果物だったり、煮物だったりする。今朝は蓋を開けると、薄切りの林檎と、小さな紙包みが入っていた。

紙には娘の絵が描かれている。四角いビル、棒のような父親、その上に大きな黄色い月。裏には覚えたての字で〈よじのおやつ〉とあった。

包みの中身は、少し崩れたクッキーだった。昨夜、帰宅したとき娘が台所で型抜きをしていたのを思い出す。

宗介は一枚をかじった。砂糖が少なく、端は焦げている。林檎と一緒に食べると、ちょうどよい甘さになった。

朝五時、交代の警備員が来る。宗介は空の三段を重ね、太いゴムで留めた。中身がなくなると、弁当箱は来たときより軽いはずなのに、娘の紙が一枚加わっただけで、どこか重みがある。

外へ出ると、東の空が黄色かった。絵の月とは反対側から、朝日が昇る。

家に帰れば、芹那と娘はまだ眠っている。宗介は音を立てず弁当箱を洗い、焦げたクッキーの匂いが残る指で、絵を冷蔵庫へ貼った。

目を覚ました娘は、冷蔵庫の絵を見つけ、「お月さま、持って帰ったの」と訊いた。宗介は頷き、空の弁当箱を三段に積んでみせた。娘は一番上を帽子のように頭へ載せる。金属には洗った湯の温度があり、朝の台所に笑い声とクッキーの甘い匂いが広がった。

次の夜勤には、娘が三つの段へ星のシールを一枚ずつ貼った。六時、零時、四時。宗介が順番に蓋を開けるたび、黄色い星が暗い休憩室へ増えていくようだった。