失われた頁をめぐる三つの栞
禁書庫の司書アメリアは、一頁をなくした。
封印書《夜明け以前》の最後の頁。王家の系譜を覆す内容だと噂される紙が、閲覧後に消えていた。鍵を持つのはアメリアだけだったため、図書宮は彼女の資格を剥奪した。
追放の日、返却台には三本の栞が置かれていた。
黒騎士団の副長オルフェンは、剣帯から銀の鎖を外し、栞代わりに帳簿へ挟んだ。
「団の記録官になれ。俺の戦歴は君にしか預けない」
星読塔の占術師ナディアは、窓辺の長椅子から天球儀をどけた。
「古文書を読む席を一つ空けたわ。昼も夜も」
流浪の書商ベニートは、裏門に荷馬車を待たせていた。
「塔も団も窮屈なら、私と本を売ればいい。出発は君が来てからだ」
誘いは嬉しかった。だが三人が欲しいのは、失われた頁の知識ではないかという疑いも消えない。
オルフェンは禁書の名を一度も尋ねず、ナディアは資格証のない彼女にも敬称を変えず、ベニートは荷馬車の書棚へ私物の本を置く段まで作っていた。それでも信じるのが怖かった。
最後の蔵書印を返そうとしたとき、アメリアの袖から薄い紙片が落ちた。
失われた頁だった。
会議にいた者たちが息を呑む。アメリア自身にも覚えがない。けれど証拠は、彼女の足元にある。
やはり自分が盗んだのだ。
「皆さん、離れてください」
アメリアは三本の栞を返そうとした。
「私を誘ったことまで疑われます。また、あなたたちの居場所を失わせる」
返事の代わりに、剣の鞘が床を打った。
オルフェンは扉の前に立ち、誰も彼女へ近づけない。ナディアは紙片を星明かりに透かし、ベニートは指先で端を撫でた。
「これは本物の頁ではない」とナディア。
「紙が新しすぎる。今朝、誰かが袖へ入れた贋作だ」とベニート。
オルフェンは銀鎖をアメリアの手首ではなく、返却台の鍵へ巻いた。
「疑いが晴れるまで、ここは俺たちが守る」
三人は帰らなかった。団の記録室、星読塔の窓辺、荷馬車の書棚。そのどれも、彼女が選ぶまで空けておくという。
アメリアは贋作の頁に三本の栞を重ねた。
失われた一頁の代わりに、閉じられない帰り道が三つ、彼女の本へ挟まれた。