家族バックアップは競合しています

 太陽嵐で家庭用記憶庫が壊れた。

 復元できるのは六十一パーセント。しかも四人の記録が食い違い、装置は処理を停止した。

〈正史となる証言者を一名選んでください〉

「母さんでいいだろ」

 父が言った。

「家族のことを一番覚えてる」

「都合の悪い喧嘩は忘れてるけどね」

 娘が返した。

「お前こそ、家を出た理由を美化してる」

 息子も加わった。

 四人は三年前の移住をきっかけに別々の居住区へ移り、ほとんど連絡を取っていなかった。父は家族が壊れたのは娘の独立からだと言い、娘は父が共有口座を凍結した日だと言い、母はもっと前から食卓で誰も話していなかったと言った。

 復元作業は、また家族を壊しかけた。

 装置が一つの映像を表示した。

〈停電の夜・信頼度四三パーセント〉

 暗い台所で、四人が溶けかけたアイスを食べている。

「苺だった」

 母が言う。

「チョコだよ」

 息子が否定する。

「父さんが懐中電灯を顎の下に当てて、幽霊の顔をした」

 娘が笑った。

「それをしたのはお前だ」

 父も笑いかけ、途中で止めた。

 装置が警告した。

〈証言が競合しています。一つを削除してください〉

 娘が〈すべて保持〉を選んだ。

〈正史を作成できません〉

「作らなくていい」

 母が言った。

「同じ夜でも、四人ぶんあったんだから」

 四人は復元方式を変更した。

 出来事ごとに複数の証言を残す。

 映像が欠けている部分は、推測と明記する。

 誰か一人の記憶で、ほかの人の痛みを上書きしない。

 作業は三日かかった。

 父が口座を凍結した理由。

 娘が連絡を絶った理由。

 息子がどちらの味方もしなかった理由。

 母が平気なふりをした理由。

 どれも一致しなかったが、削除はしなかった。

 最後に装置が尋ねた。

〈新しい家族記録を開始しますか〉

 四人は迷った。

 父は地球、母は月、娘と息子は別の軌道都市にいる。一つの家へ戻る予定はない。

「週一回、十秒ずつなら」

 息子が言った。

「食べたものだけ送る?」

「またアイスで揉めるよ」

 娘が笑った。

 新しい記録の最初には、四つの画面が並んだ。

 同じ時刻、違う場所、違う夕食。

 家族のバックアップは、元の形へ復元されなかった。

 その代わり、食い違ったまま続けられる形式へ更新された。