家族プラン二体
甲斐谷誠路は朝食のあと、家族用端末で三人の身体予約を確認する。自分は出勤型、妻の巴緒は介護型、十歳の童馬は通学型。家族プランなら同時に二体まで安く借りられるので、いつも誠路が帰宅してから童馬が接続する。
三人の本体は、難病で同じ保管施設に眠っていた。
地震が起きたのは午前七時四十分。施設の冷却設備が停止し、全利用者へ避難命令が出た。保管槽のまま運べないため、貸出身体へ意識を移し、自力で外へ出る必要がある。
端末には三人の名前が並んだ。
《同時起動上限:二体》
《起動者を選択してください》
家族プランの上限は、緊急時も変わらない。それが規則だった。
誠路は自分を外し、巴緒と童馬を選んだ。
《契約代表者の起動なしでは、未成年者を起動できません》
童馬を出すには、誠路も必要。ならば巴緒を外すしかない。
「私を置いて」
巴緒の音声が保管槽から届く。低帯域の回線で、途切れ途切れだった。
「童馬を連れてって」
「別の一体を追加する」
《緊急追加料金:二百四十万円》
決済残高は百九十六万円。家を売った金の残りすべてだった。
誠路は借入を押した。
《保管施設の損壊により、返済能力を確認できません》
天井から粉塵が落ちる。冷却温度が上がり、三人の脳波表示が赤くなる。
童馬が泣いた。
「お母さんも一緒がいい」
巴緒はいつもの声を作った。
「先に外で待ってて。すぐ行くから」
誠路は《誠路》《童馬》を選んだ。
二つの貸出身体が起動する。彼は隣の子ども型身体の手を握った。童馬の瞳が開く。
巴緒の槽だけが閉じたまま残る。
「解除してくれ!」
端末は答える。
《選択確定後の変更はできません》
避難扉が開き、警報が「残り三分」と告げる。
童馬は動かない。
「お母さんに、いってきますって言って」
誠路は槽のガラスへ額をつけた。
巴緒の指は動かない。本体ではもう動かせない。それでも脳波表示が一度だけ強く跳ねた。
二人が外へ出た直後、施設の電源が落ちた。
家族端末に請求通知が届く。
《今月の同時利用数:二体》
《プラン条件を正常に維持しました》
童馬が「お母さんは?」と聞いた。
誠路は答えられない。
二体の身体は無傷で避難できた。家族欄には三人の名前が残り、利用可能数だけが二と表示され続けた。