家族代理機は故障中

 家庭用代理機が止まった朝、四人は何もできなかった。

 父の端末に出張の持ち物が表示されない。

 母の薬の時間に音楽が流れない。

 娘の試験前に励ましの文が届かない。

 息子が夜遅く帰っても、温かいスープが準備されない。

「便利に頼りすぎたね」

 父が言った。

「機械が家族みたいになってた」

 娘が答えた。

 修理員が来るまで二日かかる。

 仕方なく、家族は代理機の設定記録を開いた。

 父の出張用一覧を登録したのは母だった。父が毎回充電器を忘れるから。

 母の薬の音楽を選んだのは息子だった。通知音では母が不安になると気づいたから。

 娘の試験前メッセージを書いたのは父だった。

〈結果より、朝起きて行くだけで十分〉

「これ、機械が考えたんじゃなかったの?」

 父は照れた。

「直接言うと、説教みたいになるから」

 夜のスープを予約したのは娘だった。息子が帰宅時刻を家族へ知られたくないと言ったので、代理機だけが反応する設定にしていた。

「みんな、機械を使って世話を焼いてたんだ」

 息子が言った。

「世話を焼いてることまで隠してた」

 故障中の二日間、四人は自分で代わりをした。

 母が父へ持ち物を読み上げる。

 息子が母の好きな曲を歌う。下手なので、母は早く薬を飲んだ。

 父は娘の部屋の前で、例の文を読み上げた。

 娘は息子の帰宅に合わせ、鍋を温めた。

「代理機より面倒」

「代理機より音痴」

 文句を言いながら、家の中で誰が何をしていたかが、前より見えるようになった。

 修理後、設定を元に戻した。

 ただし通知には、登録者の名前を表示することにした。

〈母から:充電器〉

〈息子から:薬の時間〉

〈父から:朝起きただけで十分〉

〈娘から:スープがあります〉

 機械の声は同じでも、その向こうに家族の顔が浮かぶようになった。

 ある夜、代理機が尋ねた。

『本日の家族支援は完了しましたか』

 四人は顔を見合わせた。

「完了って、あるのかな」

 父が言った。

 母は〈未完了〉を選んだ。

 家族のありがたみは、何でもしてくれることではない。

 気づかないところで何度も自分を考え、必要なときには機械の外へ出てきてくれることだった。