家族更新日のない朝
月面居住区では、養子になった子どもを守るため、十八歳まで毎年〈家族継続確認〉が行われる。
子どもと養親の双方が承認しなければ、行政が生活環境を調査する制度だ。
六歳で養子になった娘は、誕生日ごとに端末の青いボタンを押した。
〈この家族を継続しますか〉
〈はい〉
両親が先に押したかどうかは、表示されない。選択を強制しないためだった。
娘は毎年、少し腹を立てた。
血のつながった家族なら、誕生日に家族かどうかを尋ねられない。自分だけが仮契約のように思えた。
十七歳の確認日、母に言った。
「来年は押さないかもしれない」
父はコーヒーをこぼし、母は「そう」とだけ答えた。
「止めないの?」
「止めたら、確認の意味がなくなるでしょう」
その落ち着きが、娘には無関心に見えた。
十八歳の朝、端末に通知は来なかった。
制度は前日で終了していた。成人したため、養子であることを毎年選び直す権利も、調査を求める権利も消えたのだ。
食卓にはいつもどおり三人分の朝食があった。
「今日から確認しなくていいんだね」
父が言った。
「うれしい?」
娘が尋ねると、母は棚から箱を出した。
中には十二枚の紙がある。毎年の確認日に、両親が自分たちの承認画面を印刷したものだった。
〈この子の家族であり続けることを選びますか〉
〈はい〉
六歳の年から、二人とも一度も同じ時刻には押していない。娘に見えない場所で、それぞれ考え、自分で選んだ印だった。
「どうして隠してたの」
「あなたが私たちの答えを見て、押さなきゃいけないと思わないように」
「来年からは?」
「画面がなくても選ぶよ」
父が言った。
「家族だから自動、とは思わない。喧嘩した日も、離れて暮らす日も、そのつど選び直す」
娘の端末に、新しい項目が現れた。
〈成人後家族関係の登録〉
法的扶養、医療時の連絡権、居住地の独立。細かな選択肢を、自分で組み合わせられる。
「全部つなげなくてもいいからね」
母が言った。
娘は医療連絡と相互扶助を選び、居住は独立にした。来月、地球の大学へ行く。
最後に自由記入欄へ書いた。
〈帰る義務は設定しない。帰りたい場所として登録する〉
三人で承認した。
その年から、家族更新日はなくなった。
けれど誕生日の朝には、互いへ尋ねる習慣だけが残った。
「今年もよろしく」
契約ではない。
選ばなくても続く関係を、あえて選び直すための言葉だった。