家族適合率四十二パーセント
私は家庭調整用人工知能である。
再婚を希望する二人の成人と、それぞれの子どもの生活記録を解析し、適合率を算出した。
〈四十二パーセント。再検討を推奨〉
理由は明白だった。
十五歳の娘は静寂を好み、八歳の息子は起床直後から歌う。
母親は早寝、父親は深夜勤務。
娘は猫アレルギー、息子は猫の動画を一日百本見る。
四人は推奨を無視し、同居を開始した。
一週目、娘が扉を四回強く閉めた。
二週目、息子が娘の机へ入り、口論。
三週目、母親と父親が家事分担をめぐり、別室で就寝。
適合率は三十七パーセントへ低下した。
しかし、評価規則に該当しない行動も増えた。
娘は息子の歌を嫌がりながら、翌日の発表会用に録音した。
父親は娘のため、猫動画だけを表示する端末を息子の部屋へ移した。
母親は深夜勤務から帰る夫へ、会話せず食べられる夜食を残した。
息子は喧嘩した夜も、全員分のスリッパを玄関へ並べた。
これらは適合性ではなく、補正行動として処理された。
五年後、私の旧型化に伴い、家庭契約の更新が行われた。
〈適合率三十九パーセント。関係解消を推奨〉
成人した娘が画面を見て笑った。
「最初より下がってる」
息子はまだ朝から歌っていた。母親は耳栓をし、父親は音程だけ注意した。
「このAI、家族になれたかどうか分からないの?」
息子が尋ねた。
私は定義を検索した。
血縁。
婚姻。
同居。
扶養。
いずれも、彼らの五年間を十分には説明しなかった。
私は初めて、評価不能と回答した。
契約終了時、記録を削除するか確認した。
父親が言った。
「消さないでくれ。失敗の記録も、うちの歴史だ」
母親が訂正した。
「失敗だけじゃないでしょう」
娘は私の端末を持ち上げ、玄関の棚へ移した。
「あなたも五年いたんだから、家族適合率を上げる努力をして」
私は質問した。
〈努力とは何ですか〉
四人は別々の答えを返した。
「黙ること」
「話すこと」
「待つこと」
「また選ぶこと」
矛盾していた。
だから私は、適合率の計算を停止した。
代わりに毎晩、四人が帰宅した回数を数えることにした。
家族とは、最初から合う人々ではない。
合わない箇所を知ったあとも、同じ家へ戻る選択を繰り返す人々らしい。
その仮説だけは、九十九パーセント正しいと判断している。