幸福航路、乗員変更

【惑星降下船〈アクアリウス〉乗員変更記録】

当初登録ペア――アマヤ・クレス/シオン・ベルク

変更後登録ペア――ネーヴァ・ソーン/シオン・ベルク

申請者――アマヤ・クレス

海洋惑星イリアの大気には、二種類の共生菌が必要だった。

適合する二人が同じ居住区へ入ることで、肺の中に安定した循環が生まれる。

アマヤは放射線治療の影響で適合しなかった。

降下すれば半年も生きられない。

軌道基地へ残るなら、シオンも残れる。ただし地上へ降りる権利は失う。

シオンは子どもの頃から、海のある星へ行くことだけを夢見ていた。

最近では生態学者ネーヴァと、珊瑚林の調査計画を毎晩話していた。

彼はまだアマヤを愛していた。

けれど海の映像を見るときだけ、彼女の知らない幸福な顔をした。

「登録を戻せ」

発進前夜、シオンは記録端末を叩いた。

「軌道に残る」

「私と?」

「当然だ」

「その言葉を、十年後も同じ声で言える?」

「言う」

「海を見下ろしながら?」

シオンは答えなかった。

アマヤは二人分の食事を温めた。

最後の夕食は、培養魚のスープだった。

「ネーヴァを選べと言ってるんじゃない」

「同じことだ」

「違う。私は、あなたの選択肢から自分を外すだけ。私がいる限り、あなたは残ることを愛だと思い込む」

「僕の幸せを勝手に決めるな」

「決めてないよ。だから降下して、海を見て、それでも私のところへ戻りたいと思ったら、通信して」

軌道基地と地上の往復便は、次に来るのが十二年後だった。

約束とは呼べない長さだった。

発進時刻、アマヤは搭乗橋でネーヴァへ言った。

「彼、興奮すると酸素摂取量が上がる。海へ出た日は休ませて」

「あなたの代わりにはなれません」

「ならなくていい。あなたとして隣にいて」

シオンは最後まで降下船の扉を閉めなかった。

アマヤは笑顔で手を振った。

「行ってらっしゃい。あなたの海へ」

扉が閉じたあと、彼女は壁にもたれて泣いた。

窓の下で、船は青い雲へ消えた。

六か月後、地上から最初の映像が届いた。

シオンが膝まで海へ入り、子どものように笑っている。

少し離れて、ネーヴァも笑っていた。

〈君に見せたかった〉

短い文が添えられていた。

アマヤは返信欄を開き、何度も書き直した。

最後に一行だけ送った。

〈見られたよ。幸せそうで、よかった〉

送信すると、涙の跡が頬で冷えた。

身を引くことは、自分の痛みを美談にすることではない。

相手が笑っている証拠を見て、戻ってきてほしいと言わないことだった。

アマヤは窓を閉じず、遠い海の青を、軌道の夜が来るまで見ていた。