悲しみ配分率_再計算
悲しみ配分率、再計算
未来の葬送医療では、家族の悲嘆を数値化し、一時的に分配できる。
母が亡くなった日、端末には三人の負荷が表示された。
〈父 八十一〉
〈長女 六十四〉
〈末弟 九十三〉
長女は自分の配分率を上げた。
〈父から二十、末弟から三十を移行しますか〉
〈承認〉
「私が一番、平気だから」
父は反対したが、末弟は泣いていて操作できなかった。
翌朝、父は食事を作れるようになった。末弟は学校へ行った。
長女だけが、ベッドから起きられなかった。
母の死そのものだけではない。
父が一人で眠る夜。
弟が母へ最後に言った言葉。
家族写真から母だけが欠ける未来。
三人分の悲しみが、長女の中で同時に鳴った。
「返して」
三日目、長女は言った。
「悲しみを?」
「二人の分を。これは助けたんじゃない。私が勝手に持っただけ」
端末は再配分を警告した。
〈負荷の急激な返却は、家族関係を悪化させる可能性があります〉
父が電源を切った。
「悪化しても、話して決める」
三人は医師と相談し、悲しみを元の人へ戻した。
父はまた夜に眠れなくなった。
末弟は学校の門で引き返した。
長女は少しだけ起き上がれた。
「意味ないじゃん」
弟が泣いた。
「意味はある」
父が言った。
「お姉ちゃん一人が壊れずに済む」
代わりに、端末の別機能を使った。
悲しみそのものは移さない。
ただし〈そばにいてほしい〉〈話を聞けない〉〈食事を作れない〉という状態だけを共有する。
父が〈眠れない〉を押すと、長女が居間へ行った。
弟が〈母の話をしたくない〉を押すと、二人は質問しなかった。
長女が〈今日は何もできない〉を押すと、父と弟が洗濯を分けた。
数値はなかなか下がらなかった。
半年後、母の誕生日に三人でケーキを買った。父の負荷は四十二、長女は三十九、弟は五十一。
「まだ高い」
「競争じゃない」
長女が言った。
末弟は端末の表示を隠した。
悲しみは、家族だから均等にできるものではない。
強い人へ多く載せればよい荷物でもない。
三人はそれぞれの分を持ち、持てない日だけ手を借りた。
再計算をやめてから、ようやく母のいない暮らしを、自分たちの速さで始められた。