戦利品分配、同意しません

黄金の六面骰子が、石床の上で一を示して止まった。

「全員で勝ったんだ。信頼して承認してくれ」

ギルドマスターのネブラは、前の周回と同じ台詞を口にした。

VRMMO《アストラル・レイド》。最終迷宮を攻略した直後、弓使いハヤテは戦利品分配契約の承認ボタンを押した。次の瞬間、彼だけがギルドから追放され、装備も所持金も倉庫の素材もネブラへ譲渡された。契約の末尾に「脱退者の所有権放棄」が折り畳まれていたのだ。

抗議配信は「負け犬の捏造」と笑われ、キャラクターを消した夜、ログアウト画面の代わりに攻略直後の広間が現れた。

目の前には同じ骰子。同じ確認ウィンドウ。仲間たちは勝利の余韻に浸り、誰も細則を開いていない。

だがハヤテは知っている。ネブラは骰子の目を固定し、分配方式を「団長任意」に変えてある。

「承認しない」

広間の歓声が途切れた。

ネブラが眉を寄せる。

「時間制限は三十秒だぞ。お前のせいで全員の報酬が消えてもいいのか?」

前回は、その脅しで押した。

「消えない。未承認ならシステム標準分配へ戻る」

ハヤテは確認窓の右下、灰色に偽装された詳細欄を展開した。《契約拒否時:貢献度比例》。さらに、契約作成履歴を全員へ共有する。

《追放対象:ハヤテ》

《譲渡先:ネブラ》

《骰子乱数固定:使用者ネブラ》

表示を見た盾役が無言で承認を取り消した。魔術師も続く。ネブラの声が裏返る。

「これは管理を簡単にするためだ!」

「なら、まず自分の装備を譲渡対象に入れればいい」

残り一秒。

ハヤテは赤い《拒否》を押した。

黄金の骰子が砕け、細工されていた黒い芯が転がる。直後、広間を白光が満たした。

《契約不成立。標準分配を実行します》

《最高貢献者:ハヤテ 62%》

《神話級武器〈天穿つ弓〉を獲得》

前の周回では、ここで《ギルドから追放されました》と赤く表示された。

今回は違う。

《不正契約を検出。作成者ネブラを強制追放しました》

仲間一覧から消えた名は、ハヤテではなかった。