折れた馬鞭

塩の平原で、アクタイ・ボロトは半分しかない馬鞭を掲げた。

先端は昨冬、凍った敵兵の兜を打ったときに折れた。もう空を裂く音は出ない。

向かいのセチェン・アルグは、長い鞭を一度鳴らした。彼の青毛が前脚で地を掻く。

二人は同じ汗王に仕え、同じ日に主を失った。今は南軍の斥候長の座を争っている。雇い主は、平原の中央に狼尾の標を立てた。

「標を三周し、相手を落とした者を雇う」

騎馬の決闘だった。刀は使ってよい。馬を斬るのは禁止。馬は浪人より高いからだ。

斥候長になれば、冬営の羊百頭と家族用の天幕が与えられる。セチェンには妻と二人の子がいた。アクタイには、汗王の墓へ返すべき骨壺しかない。金を欲しがる者と、行き先を欲しがる者が、同じ標の周りを走ることになった。セチェンは勝てば家族を呼ぶ。アクタイは勝てば骨壺を故郷へ運ばせる。それだけだった。

一周目、セチェンはアクタイの鞭だけを見ていた。騎手は鞭を上げてから馬を切り返す。二周目、彼はアクタイが右手を上げるたび、先に内側へ馬首を入れた。刀の峰が二度、アクタイの肩当てを叩いた。殺せる間合いだったが、セチェンは落馬させることにこだわった。雇い主へ腕を美しく見せたかった。折れた鞭は鳴らなくても、合図は見える。

三周目、アクタイは狼尾の手前で右手を高く振った。

セチェンは読んだ。内へ切り込み、肩口を斬る軌道に入る。

だがアクタイの馬は曲がらなかった。

鞭を上げたのは馬への命令ではない。セチェンへの命令だった。アクタイの栗毛は膝の圧だけで動くよう、主を失ってからの三年をかけて仕込まれていた。

直進した栗毛が半馬身抜ける。セチェンの刃は空を斬った。アクタイは折れた鞭の硬い柄で、セチェンの肘を打つ。刀が落ちた。続けて肩を押すと、セチェンは塩の上へ転がった。

青毛は主を失っても走り続け、やがて自分で止まった。

「昔から、馬より人を叩くのが上手かったな」

仰向けのセチェンが言った。

「人は見たいものを見る。馬は膝しか見ない」

アクタイは折れた鞭を腰へ戻した。

南軍の将が手を振ると、平原の端で黒い狼尾旗が上がった。