既読がつく前に
《12:11 宇留野真帆:見つかった。初音の机の中》
《12:12 写真を送信しました》
昼休み、学級チャットへ財布の写真が上がった。
宍戸初音の机の奥に、赤い革の財布が半分見えている。クラスメイトが集まり、真帆は教師を呼びに走った。
「前から怪しいと思ってた。初音、みんなと昼食も食べないし」
初音は何も触らず、机から離れた。財布の持ち主が教室へ戻ったのは、その七分後だった。
「財布がない」と言ったのは十二時十八分。初音はその時刻を覚えた。
教室では、初音の椅子だけ誰も近づけなかった。真帆は「警察に言う前に謝れば許されるかも」と優しい声を作り、机へ便箋まで置いた。初音は署名せず、財布が見つかる前から撮られていた写真の時刻だけを紙へ書いた。
放課後、生徒指導室で真帆は泣いた。
「偶然見つけただけです。みんなに知らせなきゃと思って」
初音の無実を証明する目撃者はいない。昼休みは図書室に一人でいた。教師が停学や保護者連絡という言葉を出す前に、初音は学校支給のタブレットを机へ置いた。
「チャットの保存時刻を確認してください」
真帆はすでに最初の投稿を削除し、十二時二十分に同じ写真を送り直していた。けれど学校の端末では、いじめ防止のため、削除前の記録も管理画面に残る。
情報担当の教師が画面を開いた。
十二時十一分。財布がなくなったと誰も気づいていない時刻に、真帆は初音の机の写真を撮っていた。画像の詳細には、撮影場所を示す教室の無線記録と、撮影者の端末番号も残っている。
「先に持ち主から聞いていました」
真帆が言う。
財布の持ち主が首を振った。
「私、十二時十八分まで真帆さんに会ってない」
さらに管理画面には、送信前の下書きが残っていた。
《これで初音、推薦なくなるね》
《机の奥に入れたから、先生呼んで》
宛先は、真帆と二人の友人だけの別グループだった。
生徒指導主任が、初音に向けていた事情確認票を閉じる。
「盗難の疑いで記録するのは、宍戸さんではありません。宇留野さん、今から保護者と校長を交えて話します」