明日の朝が支払日

 慈善舞踏会の中央で、ヴァレンティス伯爵令息は孤児院の会計札を鳴らした。

「アルマディナ・ロスカーレは年金を支払わず、子どもたちを凍えさせた。慈愛のない女との婚約を破棄する」

 窓の外では、春分前夜の雪が細く降っていた。客たちは孤児の涙を想像し、まだ泣いてもいないアルマディナを責めた。ヴァレンティスは同情が自分へ集まるたび、得意げに顎を上げる。

 孤児院には今夜も薪が届き、厨房では豆の煮込みが湯気を立てている。年金とは別に、アルマディナが冬の間ずっと自費で用意したものだ。けれど彼女はそれを恩着せがましく並べなかった。慈善を自分の弁護へ使えば、子どもたちまで見世物になるからだ。

 ヴァレンティスは宴の招待状へ『春分の日、未払いを裁く』と大書していた。暦を一日ずらせば、善人の役を演じられると考えたらしい。彼女が沈黙しているのを、反論できないからだと誤解していた。

 アルマディナは扇を閉じた。

「支払日は、いつでございましょう」

「本日だ。だから未払いだ」

「婚約契約第十八条を」

 孤児院長イリオンが、子どもたちのために保管していた契約原本を差し出した。彼は彼女を庇う演説をせず、暦の描かれた一頁だけを開く。

 第十八条――年金は春分後、最初の日の出をもって支払期限とする。

 条文の太陽印はまだ灰色だった。夜明けは六時間後。期限は一度も過ぎていない。

 支払用の金貨も、契約どおり院長の金庫で朝を待っていた。

「たった六時間の問題だろう!」

「その六時間で、あなたはわたくしを盗人に仕立てました」

 広間の空気が変わる。ヴァレンティスは慌てて、婚約破棄は勢いで言っただけだ、明朝一緒に孤児院へ行けば美談になる、と取り繕った。

 アルマディナは首を横に振る。

「子どもたちへの支援は続けます。あなたとの物語だけ、本日で終わらせます」

 指輪を会計札の隣へ置いた。窓の向こうでは、夜明けを待つ雪が細く降り続いている。彼女は元婚約者へ背を向け、玄関で待つイリオンの差し出した手を取った。