星五つの裏側

 旅行配信者の天羽レオは、予約名を告げる前からカメラを回していた。

「今日はこのホテルが、本当に星五つか検証しまーす」

 フロントの越智みのりが確認すると、予約は最も標準的な部屋だった。繁忙期料金も、本人が予約サイトで了承している。

「スイートへ変更して。もちろん無料で」

「本日は満室でございます」

「融通が利かないなあ。俺の投稿ひとつで予約が埋まるの、知らない?」

 レオはカウンターを指で叩き、画面へ向かって笑った。

「皆さん、これが名前だけ高級ホテルの接客です」

 みのりは表情を変えず、朝食時間と避難経路を案内した。レオはカードキーを受け取ると、「責任者を呼べ」「荷物は君が運べ」「笑顔が足りない」と要求を重ねた。

 後ろで待つ家族が幼児をあやしていても、列を譲らない。ロビーの花を勝手に引き抜き、カメラ映えしないから替えろと言う。みのりが花を戻すと、「触ったなら新品にしろ」とまで言い出した。

 実はその日、ホテルグループは若者向け公式アンバサダーの最終候補三名を、一般客として招いていた。候補者には知らされていない。審査対象は宣伝力だけでなく、予約から退館までの振る舞いすべてだった。

 みのりの端末には、本部から《通常どおり対応してください》とだけ届いていた。彼女は候補者名も知らず、ただ普段どおりに客を案内していた。

 エレベーター前で、レオの配信コメントが急にざわついた。

〈案件じゃなかったの?〉

〈公式アカウントが見てる〉

〈今、ホテル本部から声明〉

「釣りでしょ」

 レオは笑いながら公式アカウントを開いた。笑顔が固まる。フォロワー向けに用意していた決め台詞も、口から出なかった。

 画面には、数分前に投稿された短い告知があった。

《アンバサダー候補者による従業員および他のお客様への不適切な言動を確認しました。当該候補者との選考および今後の取引を即時終了します》

 その直後、レオのメールに、件名だけで結論が届いた。

《最終選考結果:契約見送り》