春鋳造の冬季軍費
北方戦勝の祝宴で、ディートヘルム王子は銀貨の詰まった箱をレオノーラの前へ蹴り出した。
「冬季軍費を横領し、兵の薪代を奪った証拠だ。箱はお前の馬車から見つかった。婚約は破棄する」
蓋が開き、新しい銀貨が眩しく光る。兵士たちの家族が集う席で、最も残酷な告発だった。
昨冬、薪が途切れた砦で、レオノーラは自分の外套を裂いて凍傷兵の足を包んだ。だがその話を口にすれば、美談で罪を薄める女と笑われるだろう。彼女はただ、箱の光り方に覚えた違和感だけを見つめた。
レオノーラは箱へ近づき、一枚だけ拾った。指先に伝わった縁の鋭さは、長く流通した冬貨にはあり得ないものだった。
「殿下。この銀貨を、昨冬に私が盗んだと?」
「そう言っている」
「では、よくご覧ください」
彼女が銀貨を指で弾くと、北境王子ケルディンが受け止めた。彼は宴席の灯へ銀貨をかざし、裏面の小さな花紋を示した。
王国の造幣局は季節ごとに紋を変える。冬は雪片、春は芽吹き花。
箱の銀貨すべてに、春の花が刻まれていた。
「この貨幣が鋳造されたのは、雪解け後だ」とケルディンが言う。「昨冬の軍費として盗むことはできない」
広間の兵たちが一斉に箱を見た。
ディートヘルムは唇を震わせた。
「では誰かが、後から彼女の馬車へ――」
「その誰かをお探しください。私を婚約者に戻す前に」
レオノーラの声は冷えていたが、涙はなかった。冬の砦で薪を数え、足りない分を自費で買った夜を思えば、ここで泣く理由などない。
王子は急に膝を折りかけた。
「待て。誤認なら婚約破棄は撤回する。北方の諸侯をまとめられるのはお前だけだ」
「だからこそ、あなたの隣には戻りません」
レオノーラは拾った銀貨ではなく、婚約指輪を箱へ落とした。澄んだ音が一度だけ鳴る。
ケルディンは北境への扉の前で、手袋を外した手を差し出していた。彼の国で軍費監督官になるかどうか、決めるのは彼女だ。
レオノーラはディートヘルムに背を向け、春の紋が光る中、その手を取った。