最寄りの出口
岩喰いドロスの拳で洞窟が揺れ、蛇ノ目アキナは転移紙を握りしめた。
《脱出紙》
使用者と接触中の者を、現在地から最も近い「外部へ通じる開口部」へ転送します。
登録済みの正規出口に限りません。
正規出口までは二キロ。崩落で道は塞がれ、転移紙の表示も《距離:1987m》のままだ。
「紙を使え!」
仲間が叫ぶが、一度に触れられるのは五人。避難民は三十人いる。正規出口へ先に逃げれば、残りを置き去りにする。
アキナはドロスの拳を避けながら、洞窟の薄い壁へ走った。
「そっちは行き止まりだ!」
彼女は壁に背をつけ、怪物を挑発する。
「岩を食うんでしょう。ここは残すの?」
ドロスが咆哮し、両拳を叩き込む。アキナは寸前で伏せた。
壁が砕ける。
夕日の線が差し込んだ。人一人通れない、指ほどの亀裂。それでも外部へ通じる開口部だ。
脱出紙の距離表示が《1987m→0・4m》へ変わる。
アキナは避難民五人と手をつなぎ、紙を使う。全員が亀裂の外側へ転送された。紙は使用後も一分で再生成される低級品だ。
戻って五人、また五人。
ドロスは亀裂を広げようと殴り続ける。怪物が壊すほど出口が大きくなり、最後には転移を使わず歩いて通れる穴になった。
全員が外へ出ると、ドロスは攻撃をやめた。陽光を見たことがなかったのか、亀裂の前へ座り込む。
アキナは最後に怪物の腕へ触れ、転移紙を開く。
《接触者:岩喰いドロスを含む》
《最寄りの開口部へ転送》
外へ出たドロスは、太陽を敵だと思ったのか両腕で顔を隠した。避難民の子供が近づき、自分の外套を巨大な指へ掛ける。
洞窟の地図には、新しい出口が正式登録された。名前は《ドロスの窓》。
アキナが転移紙を使わなければ、亀裂はただの破損箇所だった。説明文が出口と呼んだことで、世界もそこを帰路として認めた。正規かどうかではなく、外へつながっているかだけが条件だった。
《洞窟ボス討伐失敗――正規出口を探す攻略から、敵の拳で世界へ新しい出口を作る脱出へ更新します》