最後の「か」は星間塵になった

小惑星帯の通信は、一度に九文字までしか送れない。

調査船〈ミナス〉のイオナ・セイルは、帰還を前に、別船の恋人カリク・ダーンへ打った。

〈帰還後会わないか〉

だが緊急観測データが同じ回線へ割り込み、最後の一文字が切れた。

カリクの端末へ届いたのは、

〈帰還後会わない〉

だった。

彼は二度読み、短く返した。

〈了解 幸運を〉

イオナは、その返事を見て胸が冷えた。

自分との再会を断られたのだと思った。

本当は、カリクは一年後に同じ居住区へ移る申請書まで用意していた。

けれど彼女が関係を終わらせたいなら、理由を求めて困らせたくなかった。

彼は申請を破棄し、帰還予定のない外縁天体調査へ志願した。

イオナもまた、彼が別れを選んだのなら引き止めまいと、地球圏での長期任務へ署名した。

誤送信が判明したのは、二隻が航路変更噴射を終えたあとだった。

通信管制から訂正文が届く。

〈原文末尾一字欠落。正しくは「か」〉

イオナは笑い出し、そのまま泣いた。

カリクから映像通信が入る。

「一文字だった」

彼が言う。

「うん」

「なぜ『会おう』にしなかった」

「疑問形なら、選ぶのはカリクだと思ったから」

「僕も、なぜって訊けばよかった」

「相手の決定を尊重した?」

「格好よく言えば」

「悪く言えば?」

「怖かった」

二人は同時に笑った。

航路を戻す燃料はない。

カリクの船は外縁へ加速を続け、次の中継圏へ入るまで三十七年。

イオナは地球へ戻る。

どちらかが任務を捨てれば、船団全体の計画が崩れる。

「三十七年、待つ?」

カリクが訊いた。

「待たない」

「即答だな」

「でも忘れない」

「僕も」

通信遅延が一秒ずつ伸びる。

「帰還後、会わないか」

イオナは今度こそ全文を声にした。

カリクの返事は、七秒遅れて届いた。

「会いたかった」

現在形ではなかった。

航路の分岐は、もう二人のあいだにある。

最後の映像で、彼は九文字の送信欄へ打った。

〈好きだった 今も〉

八文字だった。

まだ一文字入る余白がある。

イオナはそこへ何を足すつもりだったのか訊かなかった。

もう、足りない言葉を相手に推測させる恋を続けたくなかったからだ。

代わりに、自分の欄へ送った。

〈私も好き さよなら〉

今度は一文字も欠けなかった。

二隻は別々の星へ進んだ。

最後の〈か〉は星間塵になったのではない。

慎重すぎた二人が口にしなかった願いの形として、航路の分かれ目に残り続けた。