最後の一日を測る水筒
砂漠街の古物店〈乾いた泉〉は、店名のせいで旅人に縁起が悪いと避けられていた。
店主レネイは気にしなかった。転生前は山岳救助隊員で、この世界でも「残量を知らないこと」が何より危険だと知っている。
ある朝、砂塵をまとった案内人バルサクが、革の水筒を何本も机へ投げ出した。
「どれも中身が見えない。振った感触も魔法で誤魔化される。昨日、隊商の水が予定より二日早く尽きた」
幸い、井戸へ引き返して死者は出なかった。だが戻る途中で荷を半分捨て、隊商仲間からも冷たい目を向けられた。雇い主はバルサクの計算違いだと言い、弁償金まで彼一人へ負わせたうえ、次の護送で失敗すれば砂漠追放を命じるという。
「水を増やす壺は高すぎて買えない。俺が欲しいのは奇跡じゃない。正しい残りだけ分かればいい」
レネイは棚の奥から、へこんだ軍用水筒を出した。側面に七つの月が彫られている。
「水は増えません。一人が一日に必要とする量を基準に、残り日数だけ月が光ります」
「こんな傷物が?」
「傷は、十三回の遠征から戻った数です」
試しに店の水瓶から注ぐと、月が一つずつ青く灯った。レネイが杯へ水を移すたび光が消え、最後の一日分になった瞬間、水筒は石のように重くなった。
バルサクは目を見開いた。
「これなら、誰かが抜き取っても分かる」
さらに彼が自分の水筒の中身を移すと、見かけは満杯なのに月は二つしか灯らない。底に薄い偽板が入り、容量の半分を塞いでいた。
「雇い主が新しく仕入れた水筒です」
「あなたの計算ではなく、道具が偽られていたのでしょう」
十日後、バルサクは日焼けした顔をほころばせて帰った。隊商は予定通り峠を越え、偽板を仕込んだ納入商も捕まったという。
彼は値札の三倍を置いた。
「一倍は水筒、二倍は俺の名誉を戻した分だ」
「名誉は売っていません」
「なら次の旅人の水代にしてくれ」
水筒を肩に下げた案内人が去る。レネイが売上箱を閉じるより早く、乾いた鈴のような二度目のドアベルが鳴った。