最後の七秒

久我山伊織は、心霊配信の切り抜きで食べていた。怖い場面を探し、字幕と効果音を足し、十分の配信を三十秒にする。呪いより再生維持率のほうが現実だった。

素材は、北国の集落で行われる「七日送り」の生中継だった。七日目の夜、家に残った死者の時間を履物へ移し、川下へ流す。流れ切るまで家族は時計を見ない、と解説欄にある。死者の履物を川へ流し、七日間だけ家へ戻さないための行事だという。主催者から届いたメールの末尾に、妙な指定があった。

《配信終了前の最後の七秒だけは、切り抜いて保存してはいけない》

伊織は了承と返信した。だが本編には何も起こらない。無言の川、濡れた草履、遠い鐘。これでは仕事にならない。

終了直前、画面の奥を誰かが横切った。伊織は編集ソフトへ取り込み、最後の七秒だけ範囲指定した。一度だけ規則を破り、「last7」という名前で保存した。

ファイル情報には、作成者《久我山伊織》、撮影場所《現在地》、撮影時刻《七秒後》と自動入力されていた。一コマずつ送る。最初の六秒、白装束の背中が川下へ歩く。七秒目、その人物が振り向く。顔は伊織だった。

驚いて再生を止めると、タイムラインが勝手に八秒へ伸びた。追加された一秒には、編集机に座る現在の伊織が背後から映っていた。

伊織はファイルを削除し、ごみ箱も空にした。主催者へ謝罪しようとしたが、メールアドレスは存在しなかった。配信ページも消えている。

翌朝、スマホの写真アプリが「思い出」を作成した。

【久我山伊織――最後の七秒】

撮影日:明日

サムネイルには、会社の非常階段が映っていた。手すりの向こうへ傾く自分の背中。再生ボタンの下には《残り七秒》とある。

閉じても通知は消えない。一秒ごとに数字だけが減った。

《残り三秒》

《残り二秒》

《残り一秒》

ゼロになったとき、会社の内線が鳴った。液晶には自分の名前。

受話器を取る前に留守番電話へ切り替わり、伊織の声が流れた。

『ここ、切り抜いて』