最後の中継衛星
【連邦標準時 04:11】
中央連邦艦隊・通信士ニア・カルモより、外縁独立艦隊・通信士サヴァン・ロエへ。
非公式回線、接続。
二つの艦隊が戦争を始めてから、二人は廃棄衛星〈ミロ〉を使って話していた。
最初は捕虜交換の座標確認だった。
次は避難船の航路。
その次から、眠れない夜の話になった。
顔を見たことは一度もない。
それでもニアは、サヴァンが嘘をつく前に二秒黙ることを知っていた。
サヴァンは、ニアが泣くと通信文から句読点が消えることを知っていた。
【04:16】
サヴァン:
停戦交渉、決裂した。
【04:17】
ニア:
こちらにも命令が来た。
ミロを破壊する。
衛星は両軍の通信圏をまたぐ唯一の中継点だった。
残せば、上層部は相手艦隊の位置を逆探知する。
二人が避難民を救うために守ってきた回線が、次の攻撃目標を選ぶ道具になる。
両軍は同時に、衛星破壊を命じていた。
【04:20】
サヴァン:
一緒に逃げよう、と打つところだった。
【04:20】
ニア:
打たなかった理由は?
【04:21】
サヴァン:
僕が消えれば、外縁側の避難周波数を知る者がいなくなる。
君も同じだろう。
ニアは返信まで二秒黙った。
【04:22】
ニア:
同じ。
好きだった。
【04:22】
サヴァン:
過去形は受信拒否する。
好きだ。
衛星の残存時間は三分。
二人は会う約束をしなかった。
戦争が終わる保証も、生き残る保証もない。
互いの本名さえ、敵軍の記録では暗号名にすぎなかった。
【04:23】
ニア:
最後に声を送る。
雑音の向こうで、ニアは自分の故郷の子守歌を歌った。
サヴァンは旋律を知らず、最後の一音だけを真似た。
【04:24】
中央連邦艦隊、対衛星弾発射。
外縁独立艦隊、対衛星弾発射。
二本の光は同時にミロへ届いた。
爆発の直前、衛星は自動記録を一つだけ全方位へ送信した。
〈この回線は、敵を探すためではなく、生存者を見つけるために使用された〉
ミロは消えた。
二人の声も、互いへ届かなくなった。
その後も戦争は続いた。
だが両軍の避難船は、以前ミロで共有した航路を使い、何度も同じ宙域ですれ違った。
敵対する旗の下で、ニアとサヴァンは別々に通信を続けた。
相手の声はもう聞こえない。
それでも救難信号を拾うたび、二人は同じ言葉から応答を始めた。
――こちらは敵ではない。生存者を探している。